ネギまバトルロワイアル まとめサイト 別館


短編No22-B バトロワ外伝(中編)

 
作者:マロン名無しさん
掲載日時:2006/01/06(金) 23:36:37
ネギま! バトルロワイヤル


「それで、私に何をしろと?」
麻帆良学園の応接間。制服姿の少女がソファーにふんぞりかえっていた。
制服こそ中学生のものだが、その肢体は小学生かと思うほどに幼く、華奢だ。
さらに何処から見ても日本人ではありえない雪のような白い肌と金髪、碧眼、
それらが完璧なバランスで組み合わされた容姿が付随すれば、
等身大のフランス人形と間違われてもおかしくなかった。

もっとも、彼女と直接相対して人形と勘違いするような輩は誰1人としているまい。
いるとしたら彼は目医者に直行する必要がある。
どこまでも冷く透き通った蒼い瞳と向き合って平静でいられる人間など、
現状、世界には数名しかいなかった。

「もう一度聞こう。日本政府は私に何を期待しているのだ?」

吸血鬼の真祖、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは窓から降り注ぐ日光に
やや吊りあがった大きな目を細めながら、テーブル越しに座る背広姿の男に語りかけた。
メガネをかけた細面の男だ。線は細いが、何処かふてぶてしい印象を与えていた。
典型的な役人タイプである。

「ですから、我々はマクダウェルさんにですね、この島を落として欲しいのです。
 貴女様の実力からすれば、この島を陥落させることなど児戯にも等しい。
 だからこそ貴女様にこうしてお願い申し上げているのです」
「しかし、だな。私は人間同士ならともかく、宗教同士、国同士のいさかいには
 なるべく口出ししないことにしているんだ。50年前の戦争で懲りたんだよ、私は。
 どっちに加担してもしこりが残る。後々面倒。
 いいか、弘前。 私は面倒なことが一番嫌いなんだ」

エヴァンジェリンはテーブルの上に置かれたマグカップに手を伸ばした。
中味は空だった。眉をひそめると、自分の後に控える茶々丸にカップを渡し、
コーヒーを注がせる。彼女は黒水晶のように純粋な闇をたたえる液体を受取り、
鼻先で豆の香りをくゆらせた後、一口すすった。
その間、茶々丸の衣擦れ以外の音は何一つとして起こらない。

張り詰めた空気は、老人の溜息で破られた。
「まぁエヴァンジェリン。最初から取り付く暇も無いとは、
 こうして東京からこられた弘前殿が可哀想ではないか。
 彼の話だけでも聞いてやってくれんかのう」

近衛木乃香の祖父にして麻帆良学園の長、近衛学園長が、
エヴァンジェリンと弘前の間を取り持とうとした。
その努力をエヴァンジェリンは鼻先で笑う。

「国民に存在を明らかにされていない『魔法省』とはいえ、弘前、
 お前の給料は国民の血税だ。東京から麻帆良に出張するぐらいがなんだ。
 もっと牛馬のように働いてしかるべきだ」
「面目ない」

弘前が頭をかく。笑みを浮かべて頭を下げた。
愛想笑いが見え見えなんだよ、この小役人。
エヴァンジェリンは腹立たしくなり、首筋を弄った。
少女の首にも、クラス3Aの生徒達が首にしていたのと同じ種類の首輪がはめられている。
ふざけるのもいい加減にして欲しいな。

「あっ、マクダウェル殿!
 首輪は無理矢理外そうとすると爆発……」
「いかん弘前殿、こちらへ!!」
首輪にかけた指に力を入れだしたをエヴァンジェリンを前にして、
弘前は思わず立ち上がった。伸ばしかけた弘前の腕を学園長がひっつかみ、
ソファーの後に引きずり込む。弘前が抗議の声を上げる間もなく、
閃光と爆風が応接間を満たした。エヴァンジェリンを構成していた組織が、
血が、応接室一面にぶちまけられる。
ソファーの後から潜水艦の潜望鏡のように首を上げた弘前と学園長が見たものは、
相変らずふんぞりかえったエヴァンジェリンの脚と、胴体と、ちぎれた左腕だけ。。

「ふむ、弘前殿。爆発力は見事ですな。
 あのエヴァンジェリンをここまで吹き飛ばすとは」
「死んだのですか? 吸血鬼の真祖の能力を制限されているとはいえ、
 これまたなんともあっけない。こんなことなら、もっと早く始末しておけばよかった」
「冗談を云うでないわい」

今度は学園長が弘前を鼻で笑う番だ。

「この程度で殺せるような吸血鬼じゃったら、我々がとっくに彼女を殺しておる。
 ナギの封印で弱体化しているとはいえ、麻帆良学園の精鋭魔法使いが
 束になっても叶わぬ程彼女は強い。
 だからこそこうして封印を監視するだけに留まっているのじゃよ、我々の処置が」
『其の通りだな、じじぃ』

学園長と弘前の脳に、直接、少女の澄んだ声が響きわたった。
近衛学園長は落ち着いたものだが、弘前は哀れなほど慌てて周囲をうかがっている。
その彼が「ひぃ!」とブタのような悲鳴を上げた。部屋のあちこちに飛び散った肉片と血滴が
アメーバーのように蠢いていた。それらは壁や床を這いまわると、
エヴァンジェリンの身体を探り当て、溶け込んでいく。数秒もしないうちに、
黒焦げになったソファーの上には、五体満足のエヴァンジェリンが座っていた。
焼け焦げた制服のかわりに、黒いレースの下着を身につけている。
それはエヴァンジェリンの蛇のような肌の白さを妖しげなまでに際立てていた。

「弱体化しているから、銃や爆弾で殺せるとでも?
 生憎だな。私を倒したいと思うなら、日本中の魔法使いを束ねてかかってくることだ。
 これしきの爆弾で私を消滅させるなどと、『闇の福音』も随分と甘く見られたものだ。
 なあじじい」

近衛学園長は頷くしかない。

「茶々丸、もう一杯頼む」
「はい、マスター」

エヴァンジェリンがコーヒーをすする間に、学園長と弘前はソファーに座りなおした。
弘前はアタッシュケースを膝の上にのせると、もったいぶった調子で数字を合わせ、
鍵をさしこみ、ケースを開いた。封筒を取り出すと、こよりで閉じられた冊子をもち、
エヴァンジェリンがマグカップを口元から離すのを見計らって差し出した。
エヴァンジェリンは表紙に印刷された文字を見て眉をひそめた。

「極秘指令……。『竹島攻撃計画』?
 竹島とは、韓国と領有権を巡ってもめているあの『竹島』か?」
「領有権を巡って、ではありません。大韓民国が不法占領しているあの『竹島』です。
 あちらさんは『独島』と呼んでいるようですが」
「私の疑問はそこではない。
 なぜクラス3Aの連中が竹島の奪還に駆りださなければならないのだ。
 昔も今も日本政府は竹島問題を棚上げし続けているじゃないか。
 抗議はしているかもしれんが、本気で解決しようとする意志は見られなかった。
 今日になっていきなり実力での奪還を意図するとは、どういうつもりだ?」
「我々としても、韓国が実行占領程度にとどめているなら問題はなかったのです」

弘前は額の汗をハンカチで拭いながら答えた。

「ところが、韓国魔法省が竹島に魔法使いを駐留させ、
 周辺海域の日本漁船を追い払おうという計画を発動させたのです。
 先日も、密漁船を追跡していた海上保安庁が竹島から魔法攻撃を受けまして、
 あやうく撃沈される所でした。こうなっては日本政府としても黙っていられないのです」
「それで、私に竹島へ行って、駐留する兵士も魔法使いも皆殺しにしろと?
 だがこの計画書を読むと、皆殺しは良いが、占領はしなくて良いとあるな。その意図は?」
「これはあくまで韓国政府に対する警告です。余計な真似はするな、とね。
 本気で奪還してしまえば、日本国民も韓国国民も、
 日本政府が特殊部隊を投入したと受け止めかねません。
 あちらさんが、我々日本政府が本気で韓国とやりあうと考えて貰っては困るのです。
 無用な波風は立てたくないのです」

エヴァンジェリンは冊子をパラパラと捲っていた。
視線は動いていなかった。単純にもてあそんでいるだけだ。

「もし私がこの仕事を受けなければ、クラス3Aの連中を竹島に投入する、か。
 私が奴らを見殺しにしたらどうするつもりだ?」
「その点につきましては抜かりありません。
 クラスには龍宮真名、長瀬楓、桜崎刹那がいます。
 今頃、あの3名だけ別室に呼ばれてこのバトルロワイヤル本来の目的と、
 報償についての相談が進んでいることでしょう。
 彼らならば、駐留する兵士も魔法使いの全滅も朝飯前のことです」
「哀れなのは魔法世界のことを何も知らない生徒だな。
 あの三人といえども、全員はフォローできまい。
 何人かは生きて麻帆良学園には戻れない、か」

エヴァンジェリンの蒼眼が光った。
弘前は相変らず汗を拭きながら、もつれる舌先で答える。

「甲賀や伊賀の特殊部隊でも、投入するには色々と準備が必要です。
 そこへいくとマクダウェルさん、あなたは転移魔法をあつかえる。
 自由自在に転移魔法を使用出来る者など、日本国には誰1人としていないのです。
 お願いです、マクダウェルさん。この仕事、請負ってもらえませんか?」

エヴァンジェリンは腕組みをして目をつぶっていた。
弘前のかき口説く言葉など一切耳に入っていないようでもあった。
「マスター……」

茶々丸が呟く。
そしてエヴァンジェリンは口を開いた。

「報酬について私に考えがある。
 それを日本政府が呑むと云うなら、お前達の云う作戦に乗ってやっても良い」
 

    [管理人の短編一言感想集] その22−B
    短編というよりも中編の『バトロワ外伝』
    突然、出てきた弘前というオリキャラ。エヴァが突然主役級の扱いに?
    by 別館まとめ管理人(YUYU)
    お問い合わせはyuyu_negirowa@yahoo.co.jpまでお願いします。
inserted by FC2 system