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短編No22-C バトロワ外伝(後編)

 
作者:マロン名無しさん
掲載日時:2006/01/06(金) 23:36:37
ネギま! バトルロワイヤル


「ネギ先生、今日、宝塚が麻帆良で特別公演するんだって!」
授業を終えた教壇のネギに、鳴滝姉妹が駆け寄った。
子猫のようにじゃれつき、ネギの背中に飛び乗ってしまいそうな勢いだ。
「いいかげんにしなさい」と委員長が子供のような姉妹を諌めたが、
委員長の表情も何処か浮き足立っている。

「わたくしも幼い頃宝塚の公演を鑑賞したことがありましたが、
 それはそれは素晴らしいショーでしたわ。
 見た後は何日も夢の世界にいるようでした」
「委員長ずる〜い、私もみたい〜」

和泉亜子や朝倉といったかましいメンバーも話の輪に加わってきた。
皆、委員長の体験談を聞いて、宝塚の公演を瞼に焼きつけておきたいと心から願った。
たいして興味を持っていない面々も、麻帆良に来るのであれば行っておこうかと心を動かされていた。

「ネギ君はどないするんや?」
近衛木乃香がいつものおっとしとした口調で尋ねた。
「あー、でもネギ君は男の子やからなぁ。
 宝塚なんて興味ないやろなぁ」
「いいえ、僕も宝塚について色々と話は聞かされていますから。
 一度は拝見させて貰おうと思っていた所です。
 麻帆良で公演するなんて凄いことですよ。この機会を逃す手はありませんから」

ネギを取り囲む女子生徒達の表情に、電気が流れたような反応が生起した。
皆に大人気のネギ先生、その彼が宝塚へ行きたがっている。
私にも誘うチャンスがあるかもしれない。
たちまち教室はネギ先生の隣の席を巡る争奪戦の会場と化した。

「ネギせんせ〜、私といこ〜!」
「亜子ずるい! 私と行くんだってば!」
「ネギ君、うちといこ!
 あっ、せっちゃん泣かない、三人で行けばいいやないか」
「お、お嬢様! 御厚情刹那は一生忘れません…!」
 口々にはやしたてる女子生徒達はある事を忘れていた。
 それを指摘したのは委員長だった。

「おーほっほっ、皆さん肝心のことを誤魔化しているようですわね。
 宝塚を鑑賞するには、チケットなるものが必要なのですよ!
 皆さん既に入手した上でネギ先生を誘われているのですよね?」

教室は水を打ったように静まりかえった。
開け放たれた窓から吹き込む風の音がさらさらと彼らの間を駆け抜ける。
ゆったりと舞うカーテンの動きが、コマ送りでもしているかのように知覚される。

「あの、すみません皆さん。
 僕のチケットはもうあるのです。先に約束がありまして」

「へっ」
爆弾発言を投下したのは、他ならぬネギ・スプリングフィールド自身だった。
最もダメージを受けたのは、
「ネギ先生、ではわたくしとまいりましょうか」の言葉が
舌先まで出かかっていた委員長であった。
木乃香が回復魔法をかけようかと思った程、委員長は完全に石化していた。

他の生徒達も大なり小なり色彩を失って立ち尽くしていた。
宮崎のどかは抱えていた本を床に積み上げてうわ言を呟き、のどかの傍にいた
綾瀬夕映は手元の紙パックが空になったにも関わらずストローを吸い続けている。

「あっ、そろそろ行かないと。
 ではみなさん、お先に失礼します」

ネギは真っ白に燃え尽きた委員長の傍をくぐりぬけると、
あたふたと教室を出て云った。取り残された生徒達は、魂が抜けたように不動だにしなかった。
ネギは教員室に飛び込み、自分の机の上に教科書やノートを放り出すと、
周囲への挨拶もそこそこに飛び出した。暴風が過ぎ去った後、
残された先生達は「ネギ先生に何があったのでしょうかねぇ」と噂しあった。
「ネギ先生があれほど浮かれるとは。高畑先生、訳を御存知ですか?」
世間話に興じていた新田とタカミチは、光る風のように駆け抜けていったネギの姿を見て話題を転じた。
「デートでしょうね」
「ほう、ネギ先生もそんな年頃ですか。
 なるほど、逢瀬となればあれだけ張り切るのもわかりますな。
 しかし、まさか相手は生徒ではないでしょうな? 先生と生徒が恋愛関係になるなど……」
「その心配については問題ありませんよ」
 タカミチは新田の心配を笑い飛ばした。
「御相手は彼の生徒ではありませんから」

「そう云うことだ、新田。
 学校さえ終われば、ぼーやは私の弟子だからな。
 だいたい戸籍がない私は、正式には麻帆良学園の生徒ですら無い」

公園のベンチに座り、「三時の紅茶」を飲むエヴァンジェリンは、
ここにはいない初老の教師に呟いた。右隣には茶々丸が座り、
茶々丸の頭の上にはチャチャゼロが変わった帽子のように張り付いている。
茶々丸の首筋から細い線が延び、端はイヤホンとなってエヴァンジェリンの耳に収まっていた。
「マスター。教員室に盗聴器をしかけると云うのはどうかと…」
「別に構わないだろ。
 奴らが聞かれては困る妖しげな世界制服の陰謀を練っているのなら話は別だが、
 チェックしている限りでは教師達がそんな陰謀を企んでいる節はない。
 むしろ危険なのは学園長の執務室だな。あっちにこそ盗聴器をしかけたいが、
 ふん、じじいも後ろめたいから1日2度3度も盗聴器狩りをしやがって」
「はぁ……」
「まぁいい。それより茶々丸。
 チケットは3枚、ちゃんと持っているだろうな」
「問題ありません。マスターと、ネギ先生と、私の分。
 これです。手に取られて確認しますか?」

茶々丸はバッグを開け、茶色の封筒……日本政府の判が押されている……から
宝塚麻帆良特別公演のチケットを取り出した。
「いや、ちょっと聞いただけだ」とエヴァンジェリンが頷く。
主人の反応を確認して、茶々丸は再びバッグを閉じた。
その時だ。公演の茂みの向うからネギ・スプリングフィールドの姿が見えた。

ネギはBボタンを連打されているかのように全速で
エヴァンジェリンの元に滑り込んだ。暫くは肩で大きく息をして言葉が出て来ない。
エヴァンジェリンは腕組みをしてネギの様子を見守っていたが、
彼女の頬が緩んでいるのを茶々丸とチャチャゼロは見逃さなかった。

「ほら、ぼーや。落ち着け」

エヴァンジェリンは無言で飲みかけのペットボトルを差し出した。
ネギは喘ぎながらボトルを受け取ると、一息に飲み干した。
間接キスにあたるのだが、今のネギにそんなことに思い至る余裕はなかった。
甘い液体が胃に染みわたり、言葉をつくる余裕が出来てから、ネギは礼を云った。

「え、エヴァンジェリンさん、ありがとうございます!」
「遅かったな、ぼーや」

エヴァンジェリンは微笑んだ。
外見年齢相応の、高山に咲く一輪の花を思わせる可憐な笑みだった。

「ほら、急ぐぞ。開演にはまだ間があるが、私は早めに入って雰囲気を楽しみたいんだ。
 ぼーやのせいで楽しみの時間が減ったら、あとでたっぷり血を吸ってやる」
「そんなぁ…。あれ? エヴァンジェリンさんの目、ちょっと赤くないですか?」
「赤いだと? 馬鹿な、私の目のどこが充血していると云うのだ!?」
満面の笑みで吸血宣言した吸血鬼は、ネギの逆襲に途端に慌てふためいた。
茶々丸から手鏡を手渡されると、しげしげと覗き込んだ。確かに赤い。

「マスターったら。ずっと宝塚公演が見たかったものだから、
 昨夜ははしゃぎすぎて一睡もしていませんものね。まるで夏休みを前にした子供のよう……」
「あっ、ぼーやにバラすな、このボケロボ!
 まいてやる、まいてやる!」
「あっあっ、いけませんマスター。そんなに巻いては」

真っ赤になったエヴァンジェリンが茶々丸のねじを巻く。
ネギがエヴァンジェリンを諌める。
カモが慌てる。チャチャゼロが笑う。
いつもと変わらない、エヴァンジェリン達の光景。

「それにしても、日本政府も無茶をしますね。
 クラス3Aを人質に取って、エヴァンジェリンさんを脅迫したのですから。
『いうことを聞かなければ、3Aの人達を竹島に上陸させる』なんて。
 実際、3Aの人達を竹島のすぐ傍まで運んでしまいましたものねぇ」
「私が透視術が使えることを知っているから、生半可な脅迫では通じないと思ったのだろうな。
 まったく、便利屋扱いされて気分が悪い。癪に障ったから、駐留兵は皆殺しにしろと
 云われていたが、下僕にして、朝鮮半島まで泳がせてやるだけで勘弁してやったよ」

ネギが思い出したように呟く。
エヴァンジェリンは茶々丸のネジを巻く手を休め、鼻をすすった。
足元の小石を蹴り上げる。蹴られた小石は音速を突破して、不運な木の幹をへし折った。
木が倒れる大音響に、公園にいた人々が「なんだなんだ」と騒ぎ出した。
エヴァンジェリン達は慌てて公園を後にする。

あの日、エヴァンジェリンは学園長の手によって一時的に学園結界から解放された。
京都で、巨大な鬼『リョクメンスクナ』と白髪の少年フェイト相手に苦戦するネギを
救ったのと同じ方法である。エヴァンジェリンは竹島へ転移魔法で飛ぶと、
指揮官の血を吸って操り人形にし、十分程で駐留兵士全員を自分の奴隷に変えてしまった。
後はエヴァンジェリンの為すがままだった。韓国兵達は彼女の命令によって、
泳いで半島まで帰ることになる。エヴァンジェリンの下僕になった人間は
身体能力が大幅に強化されることになるので、幸い、全員無事陸地に到着した。
「韓国の魔法使いはたいしたことがないな。
 私はおろか、ぼーやの足元にも及ばない。
 北朝鮮の対ウィザード戦闘訓練を積んだ特殊工作兵は、
 元を辿ればただの人間だが、奴らの方がよほど強いよ」
「彼らをネギ先生と比べるのは少々可哀想だと思いますよ、マスター」
「当然だ。ぼーやは私が鍛えているんだからな。 だがぼーや。
 聞けば、今回の話を受けた時、ぼーやは全然動揺しなかったらしいじゃないか。
 奴らを竹島へ引率していく途中でも、冷や汗一つ垂らさなかったと聞く。
 私が断ったら、クラス3Aの連中は本当に上陸させられる所だったんだ。
 どうして落ちついていられたんだ?」
「簡単ですよ、エヴァンジェリンさん」
ネギは不意に立ち止まった。
「どうした、ぼーや」とネギに歩調を合わせていたエヴァンジェリンもつられて足を止める。
ネギはエヴァンジェリンの瞳をしっかりと見据えた。訳もなくエヴァンジェリンの顔が上気する。
「師匠がクラスのみんなを見捨てるわけないじゃないですか。
 口では色々なことを云いますけれど、貴女ほど仲間想いの女性はいません。
 だから、僕はどんなことがあっても貴女を信じます」
「そ、そうか」
「マスター、顔が真っ赤ですが」
「ケケッ、相変ラズダナ、マスター」
「でも僕は大変でしたよ。クラスの人達の記憶を消す魔法は僕1人が担当しましたから。
 麻帆良に帰ってきた時はフラフラで、その上一晩中色々なものを吸われちゃって」
「し、仕方ないじゃないか!
 私だってお腹が空いていたんだ!」
「だからって僕をまるごと食べなくても……」
「ほらほら、マスター、ネギ先生。周りの方が不審な目で見ています。
 マスター、あまり騒ぐと只でさえ子供っぽいのですから、とても淑女には見えませんよ」

茶々丸が仲裁に入ることで、ネギとエヴァンジェリンは大人しくなった。
エヴァンジェリンは唇を噛みしめ、敵でも睨むような目で茶々丸を見上げた。
茶々丸は涼しい顔をして主人の怒りをやり過ごす。

「まぁ、あの弘前とか云う官僚も、約束だけは守ったな。
 日本政府の要請とあらば、宝塚も動かないわけにはいかないからな」

エヴァンジェリンの報酬。
それは宝塚の麻帆良学園特別公演を日本政府の主導によって実現させることだった。
かねてから宝塚に興味を持っていながら麻帆良学園から出られず、
それ故に公演を見られなかったエヴァンジェリンにとって、
日本政府の申出は願ってもないチャンスであった。
また日本政府にしてみても、この程度の条件でエヴァンジェリンが動いてくれるとは
歓迎すべき事態であった。要するに双方とも渡りに船、だったわけである。

「これからは年1回、麻帆良で公演して貰うかな」
「毎月じゃなくて良いのですか?」
「ぼーや。毎日が夏休みだったらすぐに飽きる。
 それが人間と云うものだ。良しも悪しくも。
 ふふっ、全く人間と云う奴は興味がつきないな」
「だからマスターはネギ先生のことが好きなのですね」
「茶々丸、お前って奴はぁぁぁ!!」

結局、竹島は韓国政府が実行支配を続けている。
それでも、日本政府が自身の最大最強の切り札、
吸血鬼エヴァンジェリンを投入すると云う強行姿勢に恐れをなしたのか、
竹島に魔法使いを配備することはなくなった。
もめていた日本海呼称問題においても譲歩の姿勢が目立つようになった
。 日本海はいつもの緊迫感を取り戻す。それで良いのかもしれない。

3Aクラスでは失意の委員長達が次のチャンスこそと意気込む。
木乃香は刹那と明日菜を買い物につきあわせる。
新田とタカミチは禁煙派の厳しい視線に肩をすくめつつ、タバコを吸う。
空はどこまでも高く、蒼い。
麻帆良学園は平和そのものであった。

END
  
 

    [管理人の短編一言感想集] その22-C
    短編というよりも中編の『バトロワ外伝』
    意外にほんわかムードで終わりました。1人も死なないバトロワも新鮮です。
    by 別館まとめ管理人(YUYU)
    お問い合わせはyuyu_negirowa@yahoo.co.jpまでお願いします。
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