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短編No112 幸運な少女の不幸な出来事

 
作者:マロン名無しさん
掲載日時:2008/04/01(火) 03:24:11
ネギま! バトルロワイヤル


そこはなんの変哲もない山小屋だった――恐怖で震える一人の少女が居る事を除けば。
小屋の外は豪雨が降り注ぎ、激しく屋根を打つ。
闇夜に雷が光り、激しい音を立てて大地を振るわせた。

「きゃぁ!!」

鳴り響いた雷鳴に驚いた少女――椎名桜子は小さく悲鳴をあげる。

「もうやだよ……帰りたいよ……麻帆良学園に……平穏な日常に……」

雨の音にかき消されそうなくらい小さな声で呟く桜子。
目を閉じて、両手で握りしめた紫色の宝石にひたすら祈り続ける。
この島で行われている馬鹿げた殺人ゲームから解放される事を夢見て。


どれぐらいの時間が経ったであろうか。
外の雨はすでに止み、真っ黒だった空は完全なる青を取り戻していた。。
「……」
桜子は窓越しに晴れ渡った空を無言で眺める。
自分はまだ生きている――今の桜子には、もうそれだけしか理解する事は出来なくなっていた。
数日前まで共に学んだクラスメイトに命を狙われ、這々の体で逃げ回った三日間。
彼女の精神は限界をはるかに超え、次の行動を考える事すら出来なくなっていた。
そんな彼女に出来るのはこの小屋でこの殺人ゲームが終わるのを待つ事だけだった。


唐突に山小屋の周囲に足音が響く。桜子の体がビクッ、と震える。
誰かが来た事を察知した彼女は咄嗟にソファの裏に体を隠す。
そんな彼女の事などお構いなしに、小屋の扉はゆっくりと開かれる。

「おめでとう、椎名桜子君。君はゲームに勝ち残ったんだ。もう戦う必要はないよ」

そう告げたのは、扉から入ってきたこのゲームの主催者、高畑・T・タカミチだった。
その後には軍服に身を包んだ大勢の兵士。

「……私が……勝った……?」
「あぁ勝者だ。もうこの島の中で生き残っている3−Aの人間は君しか居ない」

逃げてばかりだった自分が何故勝者なのか理解出来ない桜子に対し、
高畑は煙草をふかしながら現状を説明する。

「君以外のクラスメイトは全員死亡したよ。間違いなく、ね。
そう言う訳だから君が勝者なんだ。よかったね、生き残る事が出来て。
では早速この島から出る事にしようか。もうこの島に用はないしね」

映画が終わった映画館から帰るかのような軽い口調で、桜子にこの島から出る事を促す高畑。
しかし未だ訳が分からない桜子は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で高畑を眺める。

「どうやら恐怖のあまり思考能力が著しく低下しているようだね。仕方ない、無理矢理連行するか」

高畑の指示と共に、後に控えていた軍服の男達が桜子を力づくで立たせ、外へ連れて行く。
桜子は一瞬抵抗の素振りを見せたが、腕を捕まれた後は抵抗することなく連行されていく。

「しかし意外な形で終わったものだな。こんな展開はさすがに予想出来なかったよ」

誰も居なくなった山小屋で高畑は独りそうごちた。


強引に連行された桜子は無理矢理ヘリコプターに乗せられた。
相変わらず彼女は無抵抗で、その瞳はまるで死んでいるようだった。
そんな桜子の隣に、遅れてきた高畑が腰掛ける。
ドアが閉まり、高畑の一声の後にヘリコプターは空高く舞い上がっていく。


クラスメイトの達が殺し合った忌まわしき島が遠ざかって行く中、高畑は桜子に声を掛ける。

「君が何故生き残ったのか知りたいかい?」
「!?」

今までずっと虚ろだった桜子の瞳に光が灯る。

「おや、興味があるのかい? では話してあげるよ。少し長い話になるがいいかな?」

そう告げた高畑は、桜子の返事など待たずに言葉を紡いでいく。

「君に配布された初期武器だがね、あの宝石は持ち主の幸運を倍にするマジックアイテムなんだ。
君はその幸運によってこのゲームに戦うことなく勝ち残ったんだ。
普通では有り得ない話だけどね、君の運の良さは神がかっているようだ。
通常なら銃弾が僅かに逸れたり良いアイテムをゲット出来たりする程度のハズなんだけどね」

桜子は信じられないという表情で高畑を見つめる。
だが彼の真剣な眼差しはそれが嘘でない事を物語っていた。

「有り得ない話だと思うだろう? だけど実際に起こってしまったのさ、幸運過ぎる出来事がね」
「…………」
「そしてその幸運の力とは、他人の幸運を不運に転じる事で得る事が出来るようになっているのさ」
「え?」


高畑の言葉に桜子は耳を疑った。
いや、そう聞いた今でもまだ半信半疑ではあった。
人の幸運を吸い取るアイテムなんて馬鹿げている。有り得るはずがない、と。

「信じるも信じないも君次第だがね……そうだな、じゃぁ少し不運な話をしようか。
君は自分のクラスに相坂さよという少女が居る事を知っているかな?」

高畑の問いに桜子は首を横に振る。

「そうか。まぁ知らないのも無理はない。なにせ彼女は幽霊なんだからね。
その彼女もね、この島に連れられてきていたんだ。君達と同じくしてゲームに参加させられる為に。
幽霊だから殺しようがない? 普通に考えたらそうだね。
でもね、彼女は不運な事に彼女を消す事の出来る力の持ち主に出会ってしまった。
さよ君は争う意志など皆無だったが、大事な人を失って絶望していた刹那君は、
さよ君の気配を感じただけなのに無意識に退魔の剣を彼女に向けて撃ってしまった。
こうして不運な彼女は魂すらもこの世から消える事となったんだよ」
「…………」
「そうそう不運と言えばこんな出来事もあったね。
鳴滝風香君なんだけどね、彼女の初期配布武器は幸運な事に銃だったんだ。
だが彼女は銃を扱った事など無かった。だから一度試してみたくなって藪の中を目がけて撃ったんだ。
だがそこで不運な出来事が起こった。その藪の中を彼女の妹である史伽君が歩いていたんだが、
不運にも彼女の心臓に当たってしまった。ほぼ即死だった。
僅かながらだが彼女の悲鳴を聞いた風香君はすぐに駆け寄ったが、その時にはすでに事切れていたよ。
それを見た風香君は自分の銃で自分の頭を撃ち抜いてしまったんだ。
なんとも不幸な出来事だよ。まぁ姉妹揃って死ねた事は幸せだったかもしれないけどね」
「!?」

その台詞に、桜子は鋭い視線で高畑を睨み付ける。
先程まで虚ろだった彼女の物とは思えない程鋭く。



「おっと、気に触ったかな? だがまだ他にも不幸な話は沢山あるよ」
「もう……結構です……」
「そう言わずに。空の旅はまだまだ続くんだ。ゆっくり聞いてくれ」
「結構って言いました!!」

なおも話を続けようとする高畑に、桜子は大声を上げてハッキリと拒絶の態度を示す。
だが高畑はそれでも話を止めようとしない。

「君には聞く義務があると思うんだよね。君に幸運を吸い取られた少女達の物語を」
「そんなの関係……」
「無いって言えるのかい? いいや、言えないよ君は。三十人の命を背負った君にはね」
「……ッ」
「そうそう、おとなしく聞くのが一番だよ。
さて、次は千鶴君だが……彼女の渡っていた吊り橋がね……」

桜子は無言で高畑の話を聞き続ける事にした。
それはまるで懺悔のようだった。
いや、実際桜子は高畑の話に出てくる名前を聞きながらクラスメイト達に心の中で謝り続けていた。

「超君は結構壮絶だったよ。まさか戦時の地雷がまだ残っていたとはね……」
「明日菜君は山の中でぬかるんだ足場に足をとられ……」
「エヴァンジェリンは自らの……」
「ザジ君は……」
「千雨君は……」

親しかった者、それほど親しくなかった者……どれも名前が出ては不運な出来事で死亡していった。
その度に桜子は心の中でその者に謝罪と別れを告げていく。
高畑の話は止まる事が無く、それは最早話ではなく独白に近かった。
そんな独白を聞く度に桜子の中には悲しみと憎しみが膨らんでいく。
それと同時に彼女たちの幸運を奪ってしまった自分への恨みも。


「君ともう一人最後に残ったのは真名君だったな。
その彼女もまさか雷に打たれて死ぬ事になるとは夢にも思わなかっただろうね。
僕は彼女が勝ち残ると思っていたのだが……まさに不運過ぎる出来事だよ。
いや、それだけ君の幸運と生き残りたいという願いが強かったのだろう」
「……美砂は……美砂はどんな不運に見舞われたの……?」

ほぼ出尽くしたクラスメイトの名前の中で、未だ美砂の名前だけは出てきていなかった。
その事が気になって桜子は高畑に問うた。
問われた高畑はため息とともに言葉を絞り出す。

「急かすのはよくないね。最後のお楽しみにとっておくつもりだったのに。
まぁいい。美砂君はね、唯一不運な目には遭わなかったと言って良いな」

こんなゲームに参加させられて不運な目に遭っていない訳ないだろうと桜子は思ったが
あえて話の腰は折らずにおいた。

「美砂君はね、ゲームが始まってすぐに銃で自らの頭を打ち抜いて死んだんだ。
こんなゲームには死んでも参加しない、って言ってね。
彼女だけが我々の思惑の中で死ななかった唯一の人間だよ。
その意志の強さを称えて、彼女が死を選んだこの銃を持ってきた。
後で弾を抜いて桜子君にあげるよ。形見だと思って大事にして――」

そう言って取り出した銃を、桜子は一瞬の隙をついて高畑の手から奪い取り、発砲する。
操縦席に座っている男目がけて。
一発。そしてもう一発。
乾いた二発の銃声がヘリの中をこだまする。
操縦席の男は操縦桿にぐったりと倒れ込む。
操縦者を失ったヘリは徐々に高度を落としていく。
呆然としていた高畑は、桜子の手から銃を奪い返し、腹いせに彼女の顔を殴りつける。
そして死んでしまった操縦士の代わりに自らが操縦しようと操縦席に乗り込もうとする。


「くそっ、とりあえず高度を上げないと……」

高畑は死んだ兵士の体を後にやって自らが操縦桿を握る。
ヘリの操縦免許など持っていない高畑だが見よう見まねでなんとか操縦しようとするが――

「ぐはっ!!」

桜子は兵士の持っていた銃を奪い、高畑目がけて発砲した。
胸と脇腹に一発ずつ銃弾を浴びた高畑は、それでも桜子から銃を奪い返しもう一度彼女を殴りつける。
後部座席でうなだれる桜子を睨み、吐き捨てる。

「……自分が何をしたか解っているのか!? 墜落したら全員助からないぞ……それなのに!!」

銃弾のダメージが大きいのか、操縦席で呻く高畑。
ダメージによって意識が遠のきはじめ、操縦もままならなくなる。

「何故……何故こんな事に……まさか桜子君が玉砕覚悟でこんな事をするとは……。
それ以前に……素人の彼女が何故こうも……上手く事を運べるハズ……」

そこまで思い至って、高畑は思い出す。
彼女の武器、幸運を倍する宝石を彼女に持たせたままだった事を。

「なるほど……全ては桜子君がこうしたいと思った時からすでに運は全て彼女に向いていたのか……」

薄れ行く意識の中、高畑は桜子の呟きを聞いた。

「美砂……みんな……これが私が出来る精一杯……けど仇は取ったよ……
ごめんね……みんなのおかげで助かった命棄てちゃって……私もすぐにそっちに行くね……」

墜ちていくヘリの中、桜子は生涯で最後の笑顔を心の中のクラスメイトに向けたのだった。
 

    [管理人の短編一言感想集] その112
    ずば抜けた強運の持ち主、桜子。
    しかし、BRでは生き残ることが幸運とも限らないんだなぁ
    by 別館まとめ管理人(YUYU)
    お問い合わせはyuyu_negirowa@yahoo.co.jpまでお願いします。
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