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短編No62 名も無き惨劇

 
作者:マロン名無しさん
掲載日時:2007/04/26(木) 23:41:57
ネギま! バトルロワイヤル


立ち止まっていると余計に不安が込み上げてくるから
だから走る
行く当てなどあるはずもない
空気の抜けた風船のように、ただ勢いに任せて進むだけ
それは単なる、恐怖からの逃避

――私が感じる恐怖の対象は私の死ではない
私が怖いのは、この舞台
命を人質にされた友人同士が命を奪い合う不毛の惨劇
殺人か死の二択に迫られ揺らぐ理性
叶わない意思疎通
孤独に響く発砲音
全てが、昨日までの幸福な世界が崩壊した事実を決定付けている
取り戻せない過去
避けられない現実
これ以上の恐怖はない

それでもまだ認めようとしない自分がいた
ただの現実逃避だってことは重々承知だけれど
認めてしまったら私はどうなってしまうの?
それがまた怖くて
助けが欲しい
誰かの救いが欲しい
暖かい腕で包んでほしい
独りはいやだ
それが今は無理なら……せめて、思い出させて


――高畑先生

胸に抱いた鈴は地を蹴る度にチリンと鳴く
それはとても頼りない音だけど
今の私にとっては一番の薬だった

ここは……どこだろう
暗い
森との境界があやふやな夜空に、蒔かれた白い砂粒が光るだけで
その真ん中で私は歩いている
正面の景色がわからない
知ってる物は何も無い
真っ黒な檻に閉じ込められたような錯覚
…怖い
でもここは安心できる居場所じゃないから立ち止まれない
安心できる場所なんてあるはずもないけど
それでも求めていればきっと
何か幸運なことに出会える
出会いたい
それだけの期待
とてもとても小さな期待
もしかしたら、でいい
不運な出会いになる確率のほうがずっと高いから
……じゃあ
そうだと知りながら
十の内、九が崖に繋がる道だと知りながら
どうして私は進んで行けるの?
これから行く先の多くが望まない世界なのに?
そう理解しているのに?
それもまた認めてないだけ?


はは
なんだ
やっぱり私は逃げているだけなんだ
今から逃げたいが為に、"未来"からも目を背けている
今の私に立ち向かう勇気が無いから、"未来"の私を追い詰める
そこまで解っていても
やっぱり足は止められない
…人は笑うだろう
私を愚かだと
それを今更否定するつもりはない
そうさ
私は愚かしい
それに気づいた自分を恨む
それに気づかされたこの夜が怖い

こんな情けないことを考えていたからだろうか
それともこんな私の恐怖を神様が汲み取ってくれたのか
幸か不幸かはわからない
けれど確実に私の進む道が決まった
そんな出会い

「ひぃッ!!」

突然誰かが叫んだ

この木の陰で息を潜めていたらしい
石になってその場をやり過ごすつもりだった
でも足音はどんどん大きくなってきて
私が真っ直ぐここを目指して歩いきていると感じて
鎌を構えて躍り出てきたのはやむなしの自衛だろう
それを私は咎めない
責めることはできなかった

我ながら、あんな至近距離での不意打ちにも反応できた身体能力に驚く
けれどその後、鎌を取り上げてから次の動作は少し考えた
下手に刺激してはいけない
目的は、私に攻撃の意思が無いことを理解してもらうこと
私は頭が良くない
国語力も説得力も持ち合わせていない
だから多少の時間を要したけど
鎌を返してあげてようやく信じてもらえた

「…………ごめん…」
「あ……はは。大丈夫…だから……」

いや…まだ、完全には信じてもらってないと思う
いつもと違う
その声は気を許した相手に対してのものじゃない
僅かな怯えと疑心
そして裕奈はずっと鎌を握ってる
紛れも無い警戒
それは――悲しいこと
昨日までの私達ではありえないこと
…裕奈の気持ちは理解できる
私だって逆の立場だったならそうするかもしれない
解る、解るけど――


しばらく言葉がなかった
沈黙が苦しい
何かの動きが欲しかったので私は木の根っこに腰を下ろした
それを見た裕奈もまた座り込む
私と1人分の間を空けて
この間が…今の私には分厚いコンクリの壁のように感じて
辛かった
辛くてもどうしようもなかった
この距離が今の限界
裕奈にとっても、私にとっても
…そしてまた
気まずい時間に耐える

何か言葉を見つけるまでの時間つぶしに髪を結おうとした時
「あの………」
「……ん?」
裕奈から話をもってきてくれた
嬉しかった
けれど
少しだけ、怖かった
なぜ怖かったのか
考えたくもなかった
「何……?」
裕奈は私の目をちらちら見ては逸らしながら、私のデイバッグを指差して
「その………アスナのは……何だった?」
「……?」
どうにか問われた事を推測したいけど
私の?
何のことだろう
私のバッグがどうしかした……?

「…ぇと…………ぶき…」
「…ぁ、ああ。武器ね。ごめん」
……・なぜか謝ってしまった
裕奈の機嫌を損なわせたくない
そう無意識に思っていたのかもしれない
それはまた、私も裕奈のことを警戒しているから……?
こんな些細な言葉一つで自分がわからなくなる
自分を見失う
怖い

…いや、自分のことを考えてる時間じゃない
裕奈はなんて言った?
武器……やつらが配った殺し合いの道具のことか
「アスナの武器、なんだった……?」
そういえばまだ確認してなかったな
友達を殺す気なんてないし
それより色んな感情が溢れかえってたから
今こうして言われてやっと思い出した
言われれてみれば、今この状況で一番重要な要素じゃないか
「あ……ごめん、まだ見てなかった…」
……また私はごめんって言った
これは怯えの表れ……?
益々自分が嫌になってくる
……もういい
自己分析はよそう

髪飾りをポケットにしまい込み、デイバッグを引き寄せた
ファスナーを摘む
少し固かった

「あれ………」
中には水と食料が乱雑に納まっている
けれど肝心な武器が見当たらない
入ってないなんてことあるの?
……ないとは言い切れない
私は乱暴に中身を漁り、ひっくり返した
「…………ないの?」
後ろから裕奈の声
なぜか焦る
「わかんな………あ、あった!」

私は最初に、歓喜を表す意味で言葉を発した
ただそれは宝を探し出したという達成感であって
決して宝が喜ばしい物なのではない
むしろ禁断の封印を解いてしまったような
そんな危険と恐怖をこの宝は秘めている
喜んではいけなかった
自分を責める
「……………!!」
この金属光沢と重量と形状の意味を、私は知っていた
たまにテレビで見る
警察とか暴力団が持ってるやつだ
ドラマでは、これで人が死んでいた
血をいっぱい流して
苦しそうに
痛そうに
呻いて
動かなくなる
そんな武器
本来ならとても恐ろしい物だけど
画面の向こうだけの存在だという認識があって
こうして手にとってみると違う世界にいるみたい

……そう
ここはもうテレビの向こう側、非日常のステージ
観客のいない舞台
拳銃は小道具
主演は私
演目は……名もない惨劇

私は拳銃を持っている
拳銃は撃つ物で
撃つからには対象が必要だ
そして今この場には役者がもう1人
彼女はまだ演じる役がなくて暇そうにしている
私の役は……拳銃を持つ人
拳銃を撃つ人
そして足りないのは対象
彼女の役は……

「(……ちょっと、何考えてんのよ)」

いつの間にか大変なことを考えていた
なぜ裕奈を撃とうだなんて……
どうしてそんな物騒な考えを?
いつからそんな考えを?
思い出せ
これだ
この凶器のせいだ
この"人を殺せる道具"を手にした瞬間からおかしくなった
それまでは誰かを殺すなんてこと考えたくも無かったのに
人を殺す力が、私の手を血で染めようと誘ってくる
そんなのいけない
殺し合いなんて、しちゃいけない――

  なぜ?

…だって皆友達だから
ううん、友達以前に人を殺ことは悪いこと
それに私は、誰も失いたくない

  でも人を殺す力を得た時、あなたは殺人を考えた

それは……だって
しかたないよそういう道具だもん
拳銃なんて物持ったら、もし撃ったらどうなっちゃうのか
そんなこと一度くらい考えるでしょ
仮の話よ
本気でそんなことするわけない

  しなかったら、どうなるの?

しなかったらって……
どうもしないわよ

  どうもしないから……無抵抗に殺されるのね

こ、殺されるってあんた
何…言ってんのよ……
殺されたりなんかしない
死にたくないもの


  でもあなたは気づいてる
  "死ぬ"か"殺す"かの二択しかないってね

う………
じゃあ、どうしろってのよ!!
裕奈を殺せって言うの?!

  なら、殺したくないなら死ね

え……?

  今すぐ銃口を咥えて引き金を引け

……イヤ

  できないでしょ

……

  わかる?それが二択という意味よ

そんな……

  あなたはどの選択も嫌だからって逃げているけど
  それはただの先延ばし
  いつかは決めなきゃいけないの

私はまた……逃げてたの……?








  そうよ
  あなたが拒み続けて見てらんないから、わたしが決めてあげんのよ
  殺せ

でも……それは、だめ

  チャンスはそう訪れるものじゃないの
  今殺せるなら殺せ
  躊躇いはいつか命取りになる
  あなたが死にたくないのなら、今殺せ
  
いやだ……

  彼女はまだ拳銃に気づいてないでしょ
  あなたに攻撃の意思は無いってことも伝わってる
  だから今が一番の好機なの
  あなたなら殺せる
  逃げる隙も与えずに仕留められる
  あと必要なのは、あなたの決断だけ
  さあ
  殺せ
  逃げるな
  生きろ
  だから殺せ
  殺せ
  殺せ 
  コロセ――



「嫌ぁッッ!!!」
  

両手で耳を塞ぎ、私に囁いてくる見えない何かを遠ざける
私に語りかけてくるこれは何?
……私?
私の、本心?
私が心の奥底で思ってることなの?
人殺しを?
そんな……嘘だ……
違う……
こいつは、悪魔だ
私の心を温床としている悪魔だ
だから私じゃない
私じゃないはず……
でも……
自信が、無い

拳銃を手に取っただけで
殺人を正当化しようとする自分
こんな呪われた誘惑に屈しかけるほど、私の心は弱いのか


713 :マロン名無しさん:2007/04/14(土) 04:11:05 ID:???
怖い
心が悪魔に乗っ取られそうで怖い
自分が自分でなくなってくのが怖い
この世界も、自分も、みんなみんな怖い
もう怖いのは嫌だ
誰か助けて
私が居た世界を返して
それだけだから
何もいらないから
元の世界
暖かな日常
みんなの笑顔
――高畑先生
あと、ネギ

私はポケットの髪飾りを取り出して、胸に抱いた
その音色で安心しくて
先生はここにいる
ずっといる
私を守ってくてれる
そう信じることが悪魔の囁きを払いのける力になる
この鈴が、私の居場所――



ズプッ……

……
……
……そうだった
忘れていた
悪魔の相手をしているばかりに
自分の悪魔に必死になっていたから
他の悪魔なんて気づきもしなかった
そうか
私だけじゃないんだ
もう1人いたんだ

悪魔と戦っていたのは――


最初は皮膚を突き破る感触
それが乱暴にズブズブと肉の奥へと進入していき、無数の管を断絶していく
得体の知れないショックだった
そのうち強靭な刃は肉の壁に引っかかり勢いを失う
それでもなお、柄を引く力が私の体を引っ張り続ける
やがて私の首が解放されるまで
全て一瞬の事だった


見ることは出来なかったが
さっき私は首から鎌を生やしていたのだろう
鎌は裕奈の持ち物だ
なるほど
私の拳銃に撃つ対象があるように
裕奈の鎌にも裂く対象があるってことか
それが私
私は惨劇の主演だったはずなのに
いつのまにか裕奈の舞台に引き込まれていた
そこでは鎌で裂かれる役が不足していて
丁度居合わせた私が抜擢された
何もおかしいことはない
主演と助演が入れ替わった、ただそれだけのこと


自由の利かなくった私の体は重力に任せ仰向けに倒れた
壮絶な痛みと、首周りの不快なぬめり
意識が飛びそうになる
ッひゅ……ひゅぅ…
削り取られた部分から熱と呼吸が漏れる
肺に届かない
苦しい
苦しいより痛い
……いや
痛くない?
わからない
私の小さな脳みそが大量の情報を処理できずストップしてしまったのか
それがなんだか心地いい
けれど、全身に氷水が浸透してきたかのような
抗えない寒さだけが嫌だった



  これが、逃亡者の結末よ

悪魔……
あんた、まだいたの……
もう1人にさせて……

  残念だけどそれはできないわ
  私はあなただもの
  自分を引き離せるなんてこと誰にもできやしないのよ
  言わば運命共同体ってやつ?

……じゃ、あんたも死ぬんだ……

  消えるという意味では、そうなるわね

よかった……

  何で?

あんただけ残ったら、クラス全員皆殺しとかしでかすかもしれないもの

  あはは、それはどうかしらね


……はぁ、もういい?
色々疲れたの……

  そう
  私も未練があるわけじゃないし
  もう黙っててあげる
  後は1人で後悔でもなんでもすることね
  じゃ……、さよなら

後悔?
なんでこの期に及んで後悔なの?
もっとこう、走馬灯みたいなやつ見せてくれないの?
みんなとの思い出とか…
……
そういえば、私の思い出って友達との時間しかないな
親いなかったし
小さい頃のことはよく覚えてないし
でも
ずっと幸せだったな
それは多分、みんながいてくれたからだよね
みんな優しかった
楽しかった
みんな最高のクラスメイト
…でももう会えないんだよね
こんなことなら、いいんちょにもっと素直になればよかった
ごめんね



……これが後悔?
私が悔いていること?
……違う
まだ私は逃げているの?
もう最期なんだから
気づかないふりは終わりにして
もっと謝んなきゃいけないことあるでしょ
私の悪魔……いいやよそう、もう誤魔化しもなし
私が抱いたあの感情
クラス全員を殺せば助かる
死なないためにみんなを殺す
殺して、一人だけ生き残る

……こんなことを考えて、ごめんなさい
たとえ一瞬でもそんな考えがよぎって
少しだけ流されそうになって
あのままだったら多分、裕奈を殺してたかもしれない
人殺しになってたかもしれない
だから私が死ぬのは
きっとその罰だよね
ごめんなさい

> ……あれ?
もしかすると
裕奈は、私が本当の人殺しになるのを止めてくれたのかな
裕奈が私の異変に気づいて
それで止めてくれたのかな
そうだったのなら
……ありがとう
人間のまま殺してくれて、ありがとう……


もう何も見えない
何も聞こえない
何もわからない
でも確かにそこにある
私の手の中
高畑先生との繋がり
小さな髪飾り
……やっぱり死にたくは無い
だけど
1人じゃないなら
それが高畑先生なら…
悪くない
幸せな最期じゃないかな…


もう、終わりみたいなの
みんなのことも
高畑先生のことも
だんだん考えられなくなってきて
遠くの方に行ってしまいそうで
寂しいけど
でもね
この鈴があるから
私は頑張れるよ
忘れないよ
ずっと……一緒だよね?
一緒にいていいよね?
それだけで
もう
幸せだよ
だから、ね
サヨナラ


でもさ……
なんでかな
どうして最後があんたの顔なの
今まで出てこなかったくせに
私は高畑先生とがいいのよ
邪魔しないでよ……ネギ


 

    [管理人の短編一言感想集] その62
    明日菜視点の短編。
    明日菜の心の葛藤が良い感じです。
    by 別館まとめ管理人(YUYU)
    お問い合わせはyuyu_negirowa@yahoo.co.jpまでお願いします。
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