「お、お姉ちゃぁん……」
「わ、わかってるよ」
鳴滝姉妹は深い雑木林の中で立ち尽くす。
二人の体は震え上がり、泣いているしかなかった。
その原因とは――
「クゥ〜ン。“チーム・さんぽコース増ス”の鳴滝風香さん、史伽さんこんにちは。
ボクは“ヘルズ・ベアーズ”のマイケル。こっちは相棒のベルモンド。よろしくね」
「ねぇ〜ボクたちと遊ぼ♪」
それは熊の着ぐるみをつけた無気味なタッグだった。
表情も読み取れない無垢な獣はのしのしと少女達に近付く。
「い…嫌だよ、近付くなよ!史伽、アレを……鳴滝忍法1号“濫り音”だよ!」
「はいです! それー!」
史伽の投げた爆竹から花火が広がってゆく。
二人はそのまま一目散に逃げ出した。
――が、
「ねぇ〜遊ぼうよォ〜」
「わっ……の、乗っかるなよー!」
風香の両肩にマイケルが圧し掛かる。がたいの差はあれど、肩車の形となった。
熊の化け物はそのまま両足を使って首をロックし、両肘の連撃を風香の脳天に叩きつける。
愉悦にひたる熊の笑い声と、痛みを訴える少女の叫び声が荘厳なハーモニーを奏でてゆく。
がつん、がつん、がつん、がつん、がつん、がつん、がつん、がつん、がつん、がつん
その凄惨な光景に史伽はただ呆然と眺めるだけ。足が完全にすくんでいた。
「お……お姉……ちゃん……」
史伽の呼びかけも虚しく、風香の頭部は崩れた林檎となっている。
血のように真っ赤なつやを魅せる林檎となっている。
マイケルはぐったりとした少女を抱えると、空高く舞い上がった。
「お、お姉ちゃ〜ん!!」
「大丈夫だよ。マイケルは麻帆良学園では甘ったれで通ってるから……風香さんはすぐに戻ってくる。」
いつの間にかもう一人の熊、ベルモンドが背後に現れる。
あっと声をあげる間もなく、ベアーハッグにされてしまう。
身動きのとれない史伽は、ふと空を見上げる。
そこに見えるは――熊と人間。
史伽は悟った。
ああ、あの熊さんはこのために空に飛び上がったのだ。
お姉ちゃんという凶器を、私の頭上に叩きつける為に。
私達二人を完全に殺す為に。
「「テディーークラッシャーーー!! 」」
二つの果実は衝撃に耐え切れず、血を吹き出して砕け散った。
■ ■ ■
■ ■ ■
「……とんでもない伏兵が現れたネ」
「グロロフィギャアア〜ッ!」
「えーいやめんかサっちゃん!」
獣の戯れを近くから盗み見する超は、事の顛末をしっかりとこの目に焼き付けていた。
首輪探知機に反応した4つの反応。
又とない狩りのチャンスが一転して、虐殺ショーになった。
血の気に当てられた五月は、制止しようとする超を振り払わんと暴れる。
「私はたしかに五月の内に眠る野性の本能を引き出したガ……
戦闘以外の場所ではクラスメイトを前にしてもその獣性は収めておけと堂々言ってあるネ。
それがこんなにも我を忘れるのは自分と同じ野生動物に対した時だけ……ハッ!?
もしやあのヌイグルミのクマちゃんは五月と同じ野性の……!?」
「ブミューブミューブミュー、グギュッグギュッグギュッ……!」
超が首を傾げているその瞬間。
マイケルの体が激しく盛り上がり、ヌイグルミの生地が裂け、中から氷のかけらが次々飛び出した。
慌ててベルモンドがマイケルを担ぎ、その場を去っていく。
その姿を見送ると、超と五月はこっそりと双子の死体に近付き、氷の欠片を口に含んだ。
「グフフ……なるほどネェ〜ッ。よかったねサッちゃんヨ。サツキの獣性をたっぷりと発揮できる好敵手が現れて」
「グガァ〜〜〜〜〜〜〜」
「さてと、あの熊は後回しヨ。今はこの双子の顔の皮を剥ぐとしようかネ」
ヘルズベアーズ:正体不明。
ヘブン・イクスパンションズ:双子含めて顔面6枚ゲット。
気まぐれに続く。
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