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こちら麻帆良学園麻帆良図書館深層部


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こちら麻帆良学園麻帆良図書館深層部

短編No122 1兵士から見たバトルロワイヤル 

作者:マロン名無しさん
掲載日時:2008/05/21(水) 23:08:52


こちら麻帆良学園麻帆良図書館深層部
俺は今、孤島にある廃校の廊下を歩き旧教室に向かっている、古い木造建築の為か床はきしみ、所々穴が開いている。
なぜこんな所に居るのかと言えば、バトルロワイヤルと言う特別任務を与えられたからである。
本当は有給取って出かけたかったが、隊長命令だし、特別手当もあるので厭々任務を引き受けたのである。
俺達が数十人で到着した時には既に廃校舎の旧教室には首輪をした30人の女子中学生がおり、木の扉は厳重に施錠されていた。
窓から覗き込んだ先には、ざわめきが聞こえ、討論の最中である。
この女学生達は、先に特殊部隊が京都行きの新幹線の中か拉致して来た麻帆良学園3−Aの面々であった。
(特殊部隊にしてみれば中学生の拉致など、赤子の手をひねる様な物であったろうな)
そんな事を思いながら、準備を終えて、俺達隊員はある空き教室に集合した。
「さて任務開始だぞ、皆気合入れてなめられないようにしろよ」
そこで隊長の説明と檄を聞いた後、俺達は89式小銃の安全装置を外し3−Aの面々がいる教室に向かった。
さっきまでの出来事が走馬灯の様に脳味噌を駆け巡る。
俺が回想を終えた直後に俺達は教室に到着した。
一呼吸置き隊長は乱暴に扉を開けた。
教室の中にさらなるざわめきが生まれ、空気が張り詰めていく。
「騒ぐな、席に着け」
俺達はそれを鎮め、着席させる為に大声を吐きながら歩いていく。
「貴方達にはこれから殺し合っていただきます。これは命令です。」

大声で無理やり席に着かされた彼女達への隊長の第一声がこの言葉である。
当然多くの生徒が一瞬固まり、その後もすぐには理解できないのか、生徒達はお互いを見合っている。
そんな隊長の言葉を俺は強面の顔で更に睨む様に目の前の女学生を見て聞いた。
そのせいか俺の目の前にいる佐々木まき絵や鳴滝風香は今にも恐怖の為泣きそうだったらしい。
しかし俺は全くその事に気が付かず、後で聞いて初めて分かったのである。
なぜなら当時俺は凄い恐怖を感じていたからである。
なんせ俺の顔は怖いのだが根は小心者なのだ。
しかも任務前に見せられた資料を見たら恐怖を感じない方がおかしい内容なのだ。
俺はその時、睨む顔の下で
(中学生の1クラスなのに、殺し屋?吸血鬼?ロボット?何だこのクラスは)
(こんな奴らに囲まれたら、俺は数秒で殺される自信があるよ)
と、最悪の結末を考えていたのである。

思考を終え、気を周りに向けると教室内で雪広あやかと隊長の言い争いが発生していた。
「殺し合いとは何ですか。なぜ私達がその様な事をしなくてはいけないのですの」
「答える必要は無い、早く座りなさい、これは命令です」
「いいえ座りません、たとえ座って命令を聞いたとしても私達は一心同体、殺し合いなど絶対しませんわ」
「五月蝿い黙れ、これは最終警告だ」
「嫌で・・・・」
彼女の言葉を打ち切るかの如く銃声が聴こえた。
どうやら隊長が痺れを切らしたらしく、手にした拳銃で撃ったようである。
人間が糸の切れた操り人形の様に倒れる。
視点を移すと彼女は綺麗な顔を半分吹き飛ばされ、付近には脳味噌の欠片と脳漿を飛び散らせ、一部は後ろの生徒へ付着した。
生体反応は無く既に即死である。
倒れた瞬間教室内では悲鳴が響き渡り、和泉亜子は失神し、鳴滝史伽に至っては失禁が確認できた。
神楽坂明日菜や大河内アキラや数十人が立ち上がり彼女の死体を近づく。
神楽坂明日菜はうわ言の様な言葉を繰り返しながら死体を抱き上げる。
よく聴いてみるとうわ言は
「委員長ゴメン・・・ゴメン・・・何もできなくて」
神楽坂明日菜は呟き続ける。
その周を親友の死に絶望したり、事態を理解し今後の運命に恐怖におののく生徒達の涙が包んだ。

教室内は大混乱となる。
俺達は、この混乱を静める為に大声で怒鳴りつけなくてはならない。
「静かにしろ」(うげ〜気持ち悪り、隊長、これ位でこれ撃つのは可哀想ですよ)
「早く席に着け」(しかも掃除するのは俺ですよ、勘弁しくださいよ)
発声の瞬間に俺の脳内では見事な言動不一致が発生したみたいだ。
俺達の怒声により騒ぎはやや落ち着き、次いで俺達は雪広あやかの死体に駆け寄った生徒たちを半強制的に元の席戻らせた。
しかし大河内アキラのみがその場に座り込み動かない、
仕方なく俺が元の席に強制的に座らせたが、その目の焦点はやや合ってきておらず理性の崩壊が見られたのであった。
こうして不意のアクシデントは終了した。
その後も、隊長が1時間に及ぶ演説と説明をする後ろで俺は、睨んだ顔をしながらも、内心吐き気と恐怖を感じながら立っていた。
隊長は説明の最後に29人の生徒がそれぞれ指定の場所に行くように命令し、校舎から出した。
玄関は教室前側の扉近い為か、皆俺の前を通っていく。
ある者は泣きながら、又ある者は俺を恨めしそうに見ながら罵詈雑言を吐き出ていった。
そんな中を神楽坂明日菜は無言で走り去っていく。
次に出て行ったのは大河内アキラである。
彼女は先の事で精神をやられており、普段の歩みと微かな笑みを残し出て行く。
そんな2人を残った生徒は複雑な気持ちで見送っていた。
その後も続々と生徒達は出て行き、赤い月光で微かに明るい廊下に消えていく。
こうして教室内は俺達と遺体だけが残された静寂の空間となった。

数分後に俺達は校舎を巡回し、全員出たのを確認した。
確認後、隊長達を含め数人はごパソコン等が置かれ、仮設司令部となった旧職員室へと向かっていった。
残りは歩哨任務の為各担当区間に散っていく。
その中で俺は1人教室に残り、雪広あやかの死体の片づけをする事になった。
これも下っ端の任務である。
「グロいな、しかし美人が形無しだ」
密室で死体と二人っきり、聞えるのはせいぜい風の音くらいの静寂の空間。
始めは吐き気を覚えたあやかの遺体だが、1時間以上も見ているとただの肉人形の様に感じてくるのは、感情が麻痺してきたからであろうか。
独り言を言いながらそこら辺に飛び散った肉片や脳味噌の欠片をまるでゴミ拾いをするみたいに遺体袋に入れて、最後に体液で汚れた床を拭いた。
既に不安や恐怖は殆ど感じない。
人としての優しさも無い。
あったのは任務への使命感と本能だけであった。
静寂の中での遺体整理が終った後、俺は司令部付近を警備せよとの命令を受けた。
それから後はひたすら警備の為歩哨活動をした。
こうして午前0時の交代の時間まで、俺はひたすら歩き回った。
交代後は、夕飯のカンパンを食べて、雑魚寝で仮眠を取る。
しかし自分でも何故したか分からないが仮眠前に南無阿弥陀仏と死んだ彼女の成仏を願った。
又、その時に唯一分かる事は、この間にも彼女達は殺し合い、発狂し、絶望の淵にいる事だけであった。
翌日午前4時起床、5時朝食、6時から任務の警備、18時交代、再び仮眠、この様な繰り返しを数日行う。
しかし1日に2回程は付近度で銃声や爆音が聞こえるので、その度に戦闘準備がある。
結果睡眠時間は減り正常な思考は難しくなっていく。
この警備の間、俺みたいな下っ端の兵士は司令部に入る事も無い。
当たり前ながらその後の生徒の行方は全くわからなかった。
だが、そんな事既にどうでもよかった。
ただ黙々と任務をこなすだけである。
こうして任務と破片の様な良心の狭間の中で、僅かに残った人間らしい思考や感情も急激に無くなっていくのであった。
そうしてただ任務をこなすだけの無明の日々は過ぎて行った。

開始から5日目の午後4時、バトルロワイヤルは終了した。その日は五月晴れの暑い日であった。
俺達の任務は大きなアクシデントも無く終了し、新たな任務である遺体の回収や撤収作業で大忙しであった。
俺は観測器具をトラックに載せる作業中に隊長と歩いてヘリに乗る優勝者と遠目から目撃した。
少女は全身に返り血を浴び紫の制服を赤く染め、その様子はまるで感情の無い人形の様に空をみていた。
しばらくして、彼女の歩いた所に荷物を持って横切ったが、彼女の歩いた後の所は微かに濡れているようであった。
しかしその時は、そんな事などすぐに忘れ任務を再開する。
荷物を全てトラックに載せた後、遺体回収部隊の救援の為に、俺は北方に在る森林地帯の探索を行う。
暑い日の中、木々の日陰と涼風が吹き抜け、多少の心地よさを感じる。
しかしそれに耽る暇は無い。
草木の生い茂る地面には武器や衣服等の遺品を幾つか落ちており、それを回収しつつ捜索する。
数時間の捜索の中で4体の死体を確認した。
宮崎のどかは刺し殺されており、猛暑の為か遺体にはウジが湧き半ば腐乱していた。
判別不明のある者は爆殺されたのか、臓物を四散させ、木の枝に腸管をぶら下げていた。
後の名前確認でそれは春日美空と確認される。
朝倉和美は頚動脈を切断されており、辺りの木々は赤黒く変色した血をべっとりと付着させていた。
釘宮円は全身の骨を粉砕されたのか軟体動物の様に潰れており、体高を50p程にさせ、体中の穴という穴から、体液を出していた。
いずれの顔も苦痛からか涙と鼻水や唾で汚れている。
死体付近は凄まじい腐臭と血の臭い、排泄物の臭いをさせており、それに吸い寄せられた蝿が飛び交う。
そんな死体をまるで汚物を見る様に俺は見る。
散乱した肉塊を手際よく、遺体袋に入れ、トラックに載せる。
こうして惨殺された少女達の肉塊を俺達は島中から回収し、島の仮設火葬場で火葬した後、骨を遺族に発送した。
遺体回収と火葬で夜が明けたが、俺はその間の一連の行為に関して特に何も感じる事は無かった。
強いて言えば、めんどくささを感じたくらいである。

その日の昼過ぎに、輸送ヘリに乗り俺は基地に向けて帰還した。
俺は帰りのヘリの中で同僚の監視員から、優勝者は神楽坂明日菜との事と、
発見時には「ごめん」しか喋らなかった事。
その為か一生精神病院に隔離されるであろうと言う事を聞いた。
俺はその言葉を聞くまで優勝者が誰か分からなかった。
なぜなら彼女の長い髪は切られ、顔の半分は焼けたのかケロイド状になっていたからである。
(今思えば地面が濡れていたのは彼女の中に僅かに残った理性が見せた、自らへの呪いと、殺害した仲間への懺悔の涙だったのかもしれない)
彼の言葉と彼女に関する記憶が俺の心に作用したのか、人間らしい思考を再開し始める。
その後も彼から生徒達の殺し合いの様子や1人1人の行動、そして最後を聞く。
大河内アキラは狂った心で積極的に参加して近衛木乃香ら数人を銃殺し、最後は桜咲刹那に斬殺され、遺体は切り刻まれたと。
明石裕奈は脱出しようとし、運動部の仲間を集めるが、その中で疑心暗鬼になり殺し合ったと。
村上夏美は恐怖から逃げつづけていたが、極限状態の中発狂してしまい自殺したと。
いずれも生への強い欲求が見られ、その信念のもとで必死に行動しそして死んで行ったのである。

それらの事をずっと聞いている内に麻痺した人間らしい感情も徐々に弛緩してきたらしく無性に良心が痛み自己嫌悪が発生した。
(俺はここで何をしていたのだ)
(俺彼女たちを間接的にも殺したり廃人にしたりしたのだぞ)
(彼女達は俺を恨んで死んでいったに違いない)
(俺は人殺しだ、畜生以下の存在なのか)
(人殺しになるのは嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
(嫌だ俺は何もしていない、ただの歩哨だ、そうだ、俺は命令されただけだ)
(国家に命令されて、俺は従っただけだ)
(これは国の為、国防の為の尊い犠牲だ)
(これはやらなければならなかったのだ、そうに違いない)
(これは1種の課外授業だ、俺達は戦場に情けは要らない事を教育しただけだ)
(こいつらが死んだのは死んだ奴が弱く、それが出来なかっただけだ)
(彼女の涙は生き残れた喜びだ、そうに違いない)
(だから俺は間違っていない)
しかしそんな僅かに復活した良心も、人間の自己防衛の本能に勝てなかったらしい。
最終的に自分を滅茶苦茶な論理で自己弁護しては自分の行為を正当化させていった。
そう、正当化しなければ、発狂しそうな世界であったのだ。
数分が数時間にも感じる精神世界の攻防はこうして終り、俺は結論を出した。
いつの間にかヘリは基地に到着したらしい。
夕暮れの中ヘリは着陸した。
1人の兵士が夕日を背に勢いよく降りてくる。
すでにその顔には迷いも悲しみも無かった。


こうしてバトルロワイヤルの中でまた1人の兵士が誕生したのであった。


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