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短編No115 最後のプレゼント

 
作者:スレ汚し
掲載日時:2008/05/02(金) 11:59:38
ネギま! バトルロワイヤル


夕暮れの教室。
窓から忍び込む天然の朱色が、無表情な室内に情緒を持たせる。
頃合を見計らったかのように、次々耳に入る生徒達の声。

―――先生、さようならー

窓の向こう側とは相反して、教室内はあくまで無音だった。

そこには少年がいた。
日本でいう小学生くらいの風貌なのだが、濃い緑色のスーツに身を包み、何とも言えぬ外見のギャップを作っていた。

少年はある物を手にし、それを眺めていた。そしてそれは正方形の厚紙。その中心にカラフルな文字ででかでかと描かれていた。

『ネギ先生 今までありがとう!!』

「ネギ」とは少年の名だ。
余白には、麻帆良学園女子中等部3年A組の生徒達直筆の文章が、所狭しと詰め込まれていた。
そう。3-Aの遺品として、政府からネギの元に送られてきたものは、今は亡き3-Aの寄せ書きだった。
主催者側が死体処理をした際に見つけたものを、わざわざ麻帆良まで届けてくれたらしい。
ネギは自分の生徒達の最後を聞いて知っていたが、その様なものが存在していたという事実は初耳だった。

時は三月。本来ならば、彼女達は何の弊害も無く、卒業式を迎えられるはずだった。
三年間の思い出に涙し、新たな旅立ちに胸踊らすはずだった。

だが、それはもう二度と叶わぬものとなってしまった。

少年は自分の無力さを責めた。
何のために強くなったんだ。
自分の大切な人すら守れないで、何がマギステル・マギだ。
そして、恐れた。

みんなが自分のことを恨んでいるのではないかと。

その時の怒りと悲しみと恐怖を胸の内から蒸し返される思いにかられながら、ネギは生徒達からの"最後のプレゼント"を読み始めた。



『朝倉さんとネギ先生のおかげで今年はとっても楽しく過ごせました。ありがとうございます。 さよ』
『ネギ君のおかげでさよちゃんとも出会えたし、面白いこともいっぱいあったね。私のファーストキス、忘れないでよ! 和美』
まず、目に入ったのは和美とさよのメッセージだった。
二人の仲睦まじい様子が脳裏を掠め、言い様の無い辛さが込み上げてきた。
「朝倉さん‥さよさん‥。あんなにお世話になったのに、僕は‥何一つ返せなかった‥」
二人は目立たないところで、自分達のバックアップをしてくれた。
自ら進んで表舞台に立とうとせず、陰ながら他人の支援に徹する二人の謙虚な姿勢に、ネギは心から感服していた。



『ワタシがいなくなても、クンフーさぼっちゃダメアルヨ!弟子のかつやくは、老師がちゃんと見てるアルからな! くーふぇ』
『君は強くなった。その強さで何が出来るか、決めるのは君自信だ。 真名』
『ネギ坊主。お主は昨年から見ちがえるほどに成長したでござる。けれど、初心忘るべからず。鍛練はおこたるなでござる。 楓』
『ネギ坊主よ、忘れるナ。この悲しみはいずれネギ坊主の力になるはずネ。私に見せた信念、貫き通すがヨロシ。 超』
四人は自分に強さとは何たるかを教えてくれた。
ただ腕っ節が強いだけではない。日々の努力、屈強な精神、過去を乗り越える覚悟、己が信ずる道を見失わない確固たる信念。
その全てが強さであり、自分という存在を作る。
四人の兵の言葉は、直視すると涙が溢れそうになってしまう。
だからネギは次の文に目を移す。


『ネギくん、大好きだよ!ずっとずっと、ずーっと好きでいるからね!私アホだけど、ネギくんを想うきもちはだれにもまけないよ!! まき絵』
『あんたがいなかったら‥今の私は無かったかもな。私という人間を変えたのは間違なく先生だ。その‥ありがとな。 千雨』


『ネギ先生、私はネギ先生のことが愛しくてたまりません。ネギ先生の凛々しいお姿、可愛らしいお姿、一生懸命なお姿‥‥もう、見れなくなるなんて残念でなりませんわ。
ですが、決して悲しまれないで下さいな。あなたが作りあげた3-Aは、いつまでも先生の心の中にあります。ですから、忘れないで下さい。3-Aの思い出を。3-Aのクラスメート達を。私がネギ先生を愛していたことを。 あやか』
どんな時もこんな自分を好きでいてくれたまき絵。
進む道に迷う自分の背中を力強く押してくれた千雨。
クラスの委員長として、優しく接してくれて、初めてのことに戸惑うばかりの自分の不安を拭ってくれたあやか。


『ネギ先生との思い出は貴重な体験ばかりで勉強になりました。絶対、忘れないです。 夕映』
『まさかこんなに充実した日々になるとは思わなかったよ!‥のどかと夕映の想いだけは、忘れないでいてね。 ハルナ』
『私‥誰かのためにこんなに一生懸命になれたのは初めてでした。昔の私じゃできなかったけど、今ならはっきり言えます。私、ネギ先生のこと大好きです。 のどか』
「夕映さん‥パルさん‥‥‥のどかさん‥」


結局自分はのどかにも夕映にもちゃんとした返事を返せなかった。夕映からの好意は薄々気付いていた。気付いていて、気付かないふりをしていた。
逃げていた。
逃げて、二人の気持ちを傷つけないようにして、平然と踏みにじろうとしていた。


『ただの機械であるこの私が、こんなこと言うのも変ですが‥、私が存在していたこと、覚えておいて下さい、ネギ先生。 茶々丸』
『こんな下らんことで死ぬのも癪だが‥、まあいいさ。坊やのおかげで最後の1年はそれなりに愉快だったしな。この私が直々に手解きしてやったんだ。忘れたら許さんからな。 エヴァンジェリン』
最初にして最大の関門。
最強であり、最高の師。
大きな存在だった。
とても大きな存在だった。
そして茶々丸。
彼女にもまた、その気持ちに応えることが出来なかった。


『ネギ君、うちがいなくなっても、ちゃんと毎日、朝ご飯食べるんやえ。男の子なんやから、しっかりしてな。 木乃香』
『ネギ先生のお姿からは、学ぶものが多々ありました。お嬢様の御身はこの私がお守りいたしますから、安心して下さい。 刹那』
家族同然の生活を共にし、家族以上の愛情を自分に注いでくれた木乃香。
守るべきものは何かを、己の生き様で教えてくれた刹那。
こっちこそ、学ぶものが多かったというのに。



「‥‥‥‥」
この他にも裕奈、亜子、アキラ、美空、千鶴、夏美、桜子、美砂、円、風香、史伽、葉加瀬、五月、ザジ‥
一人一人が一人一人の言葉で自分に向けて綴ってくれたメッセージ。
ネギは何度も読み返した。だが、ついに見つけることが出来なかった。
「‥‥無い」
そう、無いのだ。どこにも、誰も書いていない。

ネギを恨んでいるような言葉を。

「‥‥」
ネギは安心する所か、逆に申し訳無い気持ちになった。
彼は、自他共に生徒の身すら守れない最低の教師と認めてもらいたかった。認めてもらうことで、直面した現実から逃げようとしていたのだ。
それが、どうだ。
恨んでいる所か、逆に感謝されている。
助けることが出来なかったのに感謝されているのだ。
何も出来なかった自分を、彼女達は担任と認めてくれていたのだ。
「すみませんっ‥こんな‥えぐっ‥こんな無力な担任で‥うぇっ‥すみませんっ‥‥うっ‥」
色々な感情が涙となって流れてきた。
泣いてすむ問題ではないと分かっていたが、今の自分は止める術を持ち合わせていなかった。
徐々に暗くなる空も、静まり返る校舎も、誰も教えてくれない。

何故彼女達が死ななくてはならなかったのか。




(そう言えば‥)
少年は何かが欠けていることに気付く。
色とりどりのメッセージを一つ一つ数えてみる。
(‥‥‥足りない)
それらは全部30個。何度数えても30個しかない。
(アスナさんのが‥どこにも‥‥)
涙の滴が付着しないよう、気をつけて色紙を裏返す。
すると



『もう、泣くんじゃないわよ』


ネギには
明日菜の声が聞こえた。
くすんだ色の下地に可愛げ無く黒いマジックで一言。
一番身近にいてくれた女性(ひと)の

最後の一言。


「‥‥アスナさん‥。‥‥もう‥二度と‥」
泣いてしまえば、いつも慰めてくれた彼女達の存在を思い出してしまう。
「もう二度と‥泣きません‥‥」
彼女達は望んでいない。こんな情けない自分の姿を。自分は彼女達の分まで、笑顔でいなくてはならない。
それが自分が出来る唯一のお返し。
「約束します‥‥ですから」


「今日だけは‥‥泣かせて下さい」



少年は泣いた。
声を上げて泣いた。
生徒達との思い出に泣いた。
自分の無力さに泣いた。
運命の冷酷さに泣いた。
泣いた。
泣いた。
もう二度と泣かないために
少年は泣いた。
「うわああああぁぁぁん‥っぐ、わぁぁぁぁぁん‥」


いつの間にか空は暗かった。
31個の星の光達だけが、少年を見守っていた。


〜了〜
 

    [管理人の短編一言感想集] その115
    ネギロワでは珍しいネギが主役の短編。
    この話の展開はロワならでは、といったところ。GJ
    by 別館まとめ管理人(YUYU)
    お問い合わせはyuyu_negirowa@yahoo.co.jpまでお願いします。
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