もう2日以上続いたバトルロワイアルも終盤に差し掛かっていた。
現在生き残っているのは4人。
その中の2人が今まさに殺し合っている。
「く…まさか那波さんが乗っているとは…」
言葉を漏らしたのは桜咲刹那である。
「ふふ、乗っているというのとは少し違うわね。」
千鶴は容赦なく刹那に弾丸を浴びせる。それを刹那は支給武器の日本刀で跳ね返す。
「私は最後には死ぬわ。多分自殺になるでしょうけど。」
いくら神鳴流に飛び道具が効かないと言えどサブマシンガンでの乱撃は少々刹那に分が悪い。
刹那自身、自分が押されていると理解している。
先程から何発かは刹那の体をかすっていた。
「桜咲さんも近衛さんを守ってた身としては理解できるでしょう?」
千鶴がいっているのはもちろん、村上夏美のことである。
千鶴は夏美と共に最後まで生き残った後に自殺。結果夏美を生き残らせようとしていた。
「そんなことをして村上さんが喜ぶとは到底思えません!」
刹那は弾丸の雨をかいくぐり、一気に千鶴との間合いを詰める。
(よし、もらった!)
刹那は刀を振り払い、千鶴の持っているサブマシンガンを千鶴の手から弾き飛ばした。
「那波さん!御免!」
刹那は千鶴に向かって刃を振り下ろす。
しかし、千鶴は笑っていた。
刹那の背中に悪寒が走る。
(何だ!?殺気か!?那波さんは一般人の筈…)
次の瞬間。刹那の体は後ろに吹き飛ばされていた。
「なッ…かはっ…馬鹿な!!」
今の千鶴は無手の状態。
神鳴流は武器を選ばずの教えを持ち、ある程度は無手での戦闘に慣れた刹那でさえ驚愕の体術。
千鶴が暴走気味の最強状態に入った理由はただひとつ。
―那波さんはおばさんっぽい―
千鶴の支給武器はコードレスヘッドフォンと録音機。
そこに夏美の「ちづ姉っておばさんっぽいよね」を録音。ヘッドフォンでエンドレスリピート。
こうして最強状態の千鶴が誕生した。
このヘッドフォン。実は魔法のアイテムで、耳に装着するが実際は脳に直接録音した内容を伝える。
そのおかげでヘッドフォンが大音量でも、他人との会話に支障をきたすことはない。
千鶴は戦闘前になるとヘッドフォンを大音量にして最強状態を保っていた。
「残念だったわね。桜咲さん」
千鶴は勝利を確信し、一歩一歩ゆっくり刹那に近づいてくる。
「くっ…先程も言ったがこんなやり方で生き残っても村上さんが喜ぶとは思えんぞ」
那波の攻撃で体が思うように動かない刹那は悔しそうに千鶴に言う。
「確かにね…だから夏美ちゃんには声を録音してもらった後、眠ってもらってるの」
刹那に弾き飛ばされたサブマシンガンを拾いながら、
そして勝利の快感に酔いしれながら千鶴は刹那に言った。
そう、千鶴は夏美が眠っている間にすべてのクラスメートを殺し、最後は自分が自殺する。
そういう計画を立てていた。
睡眠薬は夏美の支給武器。千鶴が調整して、ゲームが終わる頃目覚めるようになっていた。
その頃にはゲームは終了し、夏美が優勝者として生還する寸法だ。
「じゃあ、桜咲さんには死んで貰いましょう。」
すべてを話し終わった後、千鶴は刹那に銃を向けた。刹那は死を覚悟する。
(お嬢様…私もそちらに参ります)
「少々お喋りが過ぎたようでござるな。」
「「!!!!!!!!」」
突如第三者が現れ、千鶴のヘッドフォンを奪い去った。
ヘッドフォンを奪われたことで千鶴の最強状態が解除される。
「な…楓さん!!」
そこにいたのは長瀬楓。
千鶴は刹那に勝利したと確信し、油断しきっていた。
そんな敵の背後を取ることなど忍者である楓には造作もないこと。
「千鶴殿。拙者は見ていたでござるよ。お主が木乃香殿を殺しているところを…」
「な……なんだと?」
次に驚いたのは刹那だ。
それと同時に刹那からでる殺気が凄まじいものになった。
「お前が…お嬢様を…このちゃんを…!!」
先程千鶴に投げられた時の痛みが刹那の体に走る。だが刹那は気にしない。
最愛の友であり守るべき存在だった人を殺した奴がここにいる。
それだけで充分、刹那は動く気力を得た。
千鶴はまずいと思い、楓の目の前で隠し持っていた閃光弾を破裂させる。
「なっ!しまった!!」
千鶴は楓の見せた一瞬の隙をついてヘッドフォンを奪い去る。
そして装着、千鶴は再び最強状態になった。
閃光が弱まった瞬間、光の中から日本刀を構えた刹那が千鶴の懐に飛び込む。
「刹那さん。あなたもわからない人ね。私にゼロ距離は通用しないのよ?」
刹那の体は再び宙に舞う。
「不意打ち御免!!」
刹那に攻撃した隙に千鶴の背中に楓が拳を入れる。しかしそれでさえ千鶴は無難に受け流していく。
「オホホホホホ!楓さん。無駄だと言っているでしょう!?」
そして楓も刹那と同じ方向に投げ飛ばされる。
武道四天王の中の2人を相手にしているというのに余裕綽々の千鶴。
それだけ千鶴の力は圧倒的なものがあった。
「く…楓。これではこちらの体が持たん。何か策はないのか!?」
刹那は焦りの表情を隠せず少し錯乱しながら楓に問う。
「ふむ。些か卑怯ではあるがそろそろ拙者らの勝ちが見えるでござるよ」
この状況でも至って冷静な楓。
「あらあら、2人とも最後の会話は済んだのかしら?」
千鶴は不適な笑みを浮かべながら楓と刹那のところへ近づいてくる。
「ち…ちづ姉?」
突如聞こえてくるか細い声。千鶴はその声に耳を疑った。そして千鶴に隙が生まれた。
「今だ刹那!!」
楓はそう叫ぶと共に千鶴に近づき再びヘッドフォンを奪った。
そこに刹那渾身の刀の一振りがお見舞いされる。
ヘッドフォンを奪われ最強状態を解除された千鶴に刹那の本気の太刀は避けられるはずが無かった。
千鶴は右肩から左足にかけて深い切り傷を負う。
右手に所持していたサブマシンガンは千鶴の手から離れていった。
傷からは多量の血液が流れ、みるみるうちに千鶴の体力を奪っていく。
千鶴が地面に崩れ落ちたときには既に事切れていた。
「はぁはぁ…危なかった…那波さんがこんなにやるとは…」
「ふむ、言葉の力というのは凄まじいでござるな」
「そういえばさっき村上さんの声が聞こえた気がしたんだが?」
「おう。あれは拙者の支給武器でござる。1度聞いたことのある声なら再現できる魔法具。」
「なっ何でもありだな……」
「いやー、拙者も最初は戦闘に関してあれが役に立つとは考えもしなかったでござる」
「そうか…それにしても…」
刹那は千鶴の死体をチラッとみて言った。
「那波さん最強説は本当だったな…」
「ははは。拙者らもまだまだ修行が足りないということでござるなぁ」
「いや、那波さんのアレは反則だと思うぞ?おばさんって言われるだけで…」
突如2人の体に悪寒が走る。
紛れもなく千鶴の体から発されていた。
「むむ…死してなお体が言葉に反応し殺気をだすとは…」
「すみません。那波さん!」
2人は逃げ出すように千鶴の死体から離れていった…
【出席番号22番 那波千鶴 死亡】
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