ネギまバトルロワイアル まとめサイト 別館


短編No101 夕映物語-A 共通ルート

 
作者:葱坊主 ◆tHHIOImW4w
掲載日時:2008/03/14(金) 23:19:45
ネギま! バトルロワイヤル


<1>
殺し合いという、残酷な生き残りゲームが始まってから、既に3日目の朝を迎えた。

一発の銃声が森の中に鳴り響いた。
ザジ・レーニーデイ(出席番号31)が胸を押さえ、苦痛の呻きをもらしながら倒れ込んだ。
苦しみながら、なおも立ち上がろうとするザジに向かって、もう一発の銃弾がザジの体を貫いた。
ザジはビクッと体を震わせた後、動かなくなる。

また一人、クラスメートが死んだ。

「ハア……ハア……これで、私以外で生き残っているのはあと2人になったです」
綾瀬夕映(出席番号4)は乱れた息を整えながら、煙の立ち上る拳銃を下ろして呟いた。

ザジの死体に背を向けると、生き残っているクラスメートを探すために歩き始める。
真っ直ぐに歩いて森を抜けると海辺に出る。
今はもう聞こえてこないが、ザジとの対戦の最中に遠くから銃声や爆発音が聞こえていた。
そこに行けば誰か生き残っている生徒がいるだろうと考えて、音のした方向へ向かって夕映は進んでいった。

誰も居ない海岸沿いの道をただ一人で歩きながら、夕映はゲームが始まったときの事を思い出していた。




<2>
―――見知らぬ古びた教室の中。
夕映が目を覚ました時、生徒全員の首には見覚えのない首輪が取り付けられていた。
何があったのか分からずに戸惑う3−Aの生徒達。
しばらくすると教室の扉が大きく開いた。軍服を着た男達が銃を持ってどやどやと教室に入ってくる。
生徒達は何が起こったのかと黙ったまま事の成り行きを見ていた。
軍服を着た男達の後からクラス担任のネギが入ってきた。
ネギは男達を後ろに従えて教壇に立つと開口一番、生徒達にこう言った。
『今から貴方達に殺し合いをしてもらいます』


「……今思いだしても、あの時のネギ先生はおかしかったです」
3日前に起きた出来事を思い出しながら夕映はボソリと呟いた。


―――ネギの言葉を聞き、クラス全体が騒ぎ出すが、ネギは騒ぐ生徒達を無視した。
軍服を着た男達が生徒達を威嚇して黙らせると、ネギは平然と殺し合いのルールの説明を始めた。
「冗談じゃないわよっ!」
沈黙を破るように早乙女ハルナ(出席番号14)が大声を上げ、いきなりネギに突っかかっていった。
その瞬間、ネギの周りにいた軍服を着た男達が一斉にハルナに銃を向け、複数の銃声が鳴り響いた。
銃弾を浴びて体中から血を噴出しながら後ろ向きにハルナは倒れ込んだ。
生徒達は一斉に倒れたハルナから遠ざかる。
夕映はその光景を見て、何が起こったのか理解することを頭が拒否してしまい、呆然としていた。
ハルナに近寄ることさえできなかった。

親友の死というショックから立ち直る暇もなく、まるで急いでいるかのようにゲームがスタートした。
目が覚めてから15分も経っていなかったように思う。
出席番号2の明石裕奈から一人ずつ、追い立てられるように教室から出て行った。
夕映の出席番号は4番目。裕奈の後に和美がスタートするとすぐに名前が呼ばれた。
心を落ち着けることもできないまま、教室から出て行くことになってしまった。

校舎から出た時に、夕映は親友の宮崎のどか(出席番号27)が出てくるのを待っていようかとも考えた。
しかし、彼女の出席番号は27番目。クラスの中でも最後のほうである。
校舎の近くに居てはゲームに乗った生徒と遭遇する危険性の方が高いと判断し、一旦校舎から遠く離れることにした。
夕映は校舎からまっすぐ伸びる道をひたすら走った。

10分くらい走っただろうか、校舎からはかなり離れたはずである。
夕映は走るスピードを少し緩めた。
その瞬間、夕映の目の前に誰かが飛び出してくる。同時に夕映の左腕に激痛が走った。
切りつけられた左腕を押さえて夕映は顔を上げる。明石裕奈(出席番号2)が目の前に立っていた。
裕奈が握り締めているナイフで切りつけられたらしい。
良く見ると、彼女の後ろには胸や腹から血を流して倒れている朝倉和美(出席番号3)の姿があった。
どうやら彼女は校舎から出てすぐに殺し合いのゲームに乗ることを決意したようである。

夕映は裕奈に背を向けて全力で逃げることにした。しかし裕奈が後を追いかけてくる。
足は夕映より裕奈の方が速い。いずれ追いつかれるのは時間の問題だった。
急いでデイバックを肩から下ろした夕映は、中を探って自分に支給された武器を取り出す。
幸いなことに夕映の支給武器は拳銃であった。
銃を握り締めた夕映は、振り返ると同時に裕奈に銃を向けると迷わず引き金を引いた。

パンッ!と乾いた音が鳴り響く。

裕奈は夕映のすぐ後ろまで肉薄していた。夕映が反撃することを予想していなかったのか、
狙いがいい加減だったのにも関わらず、至近距離で裕奈はまともに銃弾を食らった。
銃弾を受けて少し仰け反った裕奈は、走っていた勢いのまま上半身を地面に打ち付けて倒れ込むと、そのまま動かなくなった。

煙の立ち上る銃を構えたまま夕映は放心していたが、ハッと気づくと恐る恐る裕奈の元に近づき、
倒れている裕奈に声をかけながら体を揺さぶる。
裕奈からは何も反応はなかった。
「―――――!!!」
(ひ、人を……ク、クラスメートを殺してしまいましたっ!)
自分の行動が信じられずに夕映の膝がガクガクと震えだす。

心の中が恐怖と後悔の念で支配される。
夕映は自分の体を抱きしめて気持ちを落ち着ける。
「お、落ち着くです。身を守るための仕方ない処置です。……これは正当防衛が成り立つ行為になります。
 過剰防衛に該当する可能性は否定できませんが、相手が殺意を持って攻撃してきたのは明らかであり、
 これに対して命を守るための行動として相手を殺してしまうということは、言うなればやむをえない事です。
 充分正当防衛の範疇に当てはまると思われるです………」
頭の中で自分の行動が法律的にどう捉えられるのかという考察がぐるぐる回転している。
殺し合いのゲームの中でそんなことを考えていること自体が無意味だというのを解っていながら、考えずにはいられなかった。
そうすることで夕映の心のバランスを辛うじて保っていた。

夕映は動悸を抑えながら大きく深呼吸をした。ようやく少しだけ落ち着くことができた。
やってしまったものはもう手遅れであると何度も何度も自分に言い聞かせた。
「と、とにかくここから移動するです」
そう判断すると、夕映は裕奈の側に落ちていたナイフとデイバックを奪い、急いでその場から離れた。
人を殺してしまったことに混乱していながらも、無意識に相手の荷物を奪う行動をとっていたのは、
心の奥底で冷静にゲームに生き残ろうとしている自分がいたのかもしれない……。

裕奈から離れた後、夕映はとにかく親友ののどかと合流したかった。
のどかと一緒なら自分はいつもの自分らしく冷静に振舞えるはずだ。
夕映にとって、のどかとの出会いは心の支えだった。
そして、のどかを見つけるために夕映はエリア内を彷徨い歩いた。




<3>
夕映がのどかと再開できたのは2日目の昼頃だった。
定時連絡の放送が流れ、自分の居る場所が20分後に立ち入り禁止エリアになることを知り、
禁止エリアから出ようとしていたときのことだった。
移動の途中で血を流して地面に倒れているクラスメートを発見した。
その姿を見つけた時、夕映の心臓はドクンと跳ね上がった。

夕映は倒れているクラスメートにゆっくりと近づいた。
銃弾を受けて仰向けに倒れている宮崎のどか(出席番号27)がそこにいた。
周りには誰も居ない。のどかを撃った人間は既に立ち去っているようだ。
急いでのどかの体を抱き起こすと、まだ微かに息があった。夕映は大きな声でのどかの名を何度も呼んだ。
すると、のどかは僅かに目を開き、夕映の存在を確認する。のどかは親友との再会を喜んで微笑んだ。
のどかの胸元は真っ赤に染まっており、流れ落ちた血は地面にまで染み込んでいる。
夕映の目から見ても、もう助からないのは明らかだった。

夕映は涙を流しながらのどかの手を取る。
「のどか、しっかりしてください!のどか!」
のどかは最後の力を振り絞って、かすれた声で夕映に話しかけた。
「ゆえ……私の……分も……生き……て……」
その言葉を最後に、のどかの手は夕映から離れ落ち、両目が閉じると2度と目を開かれることはなかった。
「のどかぁぁっっ!!」
夕映は泣き叫びながらのどか体を揺さぶって何度ものどかの名を呼んだ。しかし、のどかが答えることはなかった。
のどかが死んだことを知り、夕映は地面に両手を突いて大声で叫んだ。
森の木々が夕映の声に木霊して、木の葉がざわざわと揺れ動いていた。

どれくらいそうしていただろうか?
ここが禁止エリアになる時間が刻々と近づいていたために、夕映は仕方なくのどかをその場に置いたまま、移動することにした。
「お別れです、のどか。約束します。貴方の分も……生き延びて見せます!」
夕映はのどかに別れの言葉をかけると、振り返ることなくその場から立ち去った。

これで夕映の親友であるハルナものどかも2人とも居なくなってしまった。
ハルナに対しては別れの言葉すらかけることが出来なかったことが今になって悔やまれる。
夕映はハルナとのどかを殺した人間に対して怒りを感じたが、それ以上に何も出来ない自分を不甲斐なく思った。
そして、自分自身も人のことは言えないと思い自嘲した。

のどかの最後の言葉、そして最後の約束。
彼女と親友だった証として、その約束だけは守りたい。
それだけが夕映の心の支えだった。

そのためにも、夕映はこのゲームで生き残るための覚悟を決めた。ゲームに乗る覚悟を。




<4>
―――そして、3日目の午前中の現在に至る。
先程自分が撃ち殺したザジを後にして、次の生徒を探している。

ゲーム終了のタイムリミットまであと4時間。
生き残っている2人のクラスメートと自分の内の誰か1人だけが生きて帰ることができる。
夕映は用心深く行動したことと幸運が重なって、強敵と出会うことなくここまで生き残ることができた。
ただし、これまで出会ったクラスメートの内の何人かは夕映自身が手にかけた。
あと2人……2時間前の放送で、生き残っていたのは4人。
夕映はクラス名簿を取り出した。ザジの顔に×をつける。
自分を除くと龍宮真名と春日美空の2人が残っていることになる。
どちらも厄介な相手である。

生き残っている生徒を探すために海沿いの遊歩道を歩いていると、向こうからこちらに近づいてくる人影があるのに気付いた。
近づくにつれて相手が誰であるか分かるようになった。龍宮真名(出席番号18)である。
実戦経験が豊富な彼女は、ゲームの中でも強さを発揮して、ここまで生き残っていたようである。
普通ならば、夕映は真名に対してどうあがいても勝つことはできなかっただろう。
しかし、今の真名はいつもの見慣れた姿ではなかった。
彼女の右腕は失われている。右目は潰れ、体の右半分は焼けただれていた。そして右足を引きずるようにして歩いている。
彼女の変わり果てた姿に夕映は驚くと共に、ザジと戦っている時に、遠くで轟音が響いてきたことを思い出す。
恐らく何らかの爆発に巻き込まれたのだろう。

真名は足を引きずりながら夕映の前まで来ると、口を開いた。
「綾瀬か、お前がここまで生き残っているのは正直意外だった」
かなりの重症のはずであるにもかかわらず、真名の言葉に淀みはなかった。
「残っているのは私と、龍宮さんと美空さんだけです」
「……その口ぶりだと、ザジはお前が倒したのか?ならば訂正しよう。残っているのは私とお前の2人だけだ。
 2人のうち、どちらか生き残ったほうが優勝というわけだ」

真名の言葉は美空も死んだということを意味していた。爆発音がした時がそうなのだろう。
夕映は改めて真名の姿を下から上まで眺めた。
「龍宮さんの方は……大変だったようですね」
どちらが生き残るのかは解らないが、これが3−Aのクラスメート同士の最後の会話になるだろう。
「ああ、この怪我は気にしないでくれ……油断した自分が招いたことだ」
「と、言う事は……やる気なのですか?」
普通ならばこの怪我では戦えるものではない。そもそも動くことさえ困難な重傷なのである。
しかし、それを真名は意に介していないようなので、思わず質問してしまった。
「当然だ」
真名はきっぱりと答える。
夕映は息を吐いた。真名がやる気なら夕映の答えは一つだ。
「では、時間も余りありません。そろそろ始めますか」
そう言うと夕映は腰を落として銃を構える。
「遠慮はいらんぞ」
そう答えた真名は夕映に銃を向けて発砲する。
地を蹴って横に飛んだ夕映は真名の銃弾をかわす。そして真名の右側に回りこむように一気に走った。

真名は再び夕映に照準を合わせて引き金を引く。
本来なら外すことのない真名の銃弾が夕映の後方を通り過ぎる。
「!?」
狙い通りの場所に銃弾が飛ばないことに真名自身が少し驚く。
夕映の走った方向は右目を失った真名にとっては死角となる。しかも片目では距離感を掴むのは難しい。
平静を装ってはいたものの、真名の体に受けたダメージは確実に真名の戦闘力を削ぎ落としていた。
一方の夕映は左腕と肩を負傷しているものの、少し痛む程度で動きには支障はない。

走りながら立て続けに2発、夕映の握った銃が火を噴いた。
真名はその場にしゃがみ込んで銃弾をかわす。しかし、右足が思うように動かずに真名がバランスを崩してよろめいた。
その隙を逃さず、夕映は立ち止まると両腕で銃を握り締め、真名に照準を合わせると引き金を引いた。
バンッ!
乾いた音が響いた。

真名は少しの間動きを停止させていたが、一瞬ぐらついたかと思うと前のめりに倒れ込んだ。
一度だけ体をビクッと痙攣させると、それ以上真名が動くことはなかった。
夕映は真名の側まで歩くと、感情のない目で真名を見下ろしたまま佇んでいた。
「これで……終わったです。のどか、約束は守りましたよ」

それから5分後にゲーム終了の放送が流れた。



<5>
―――夕映は今、最初にスタートした学校の校舎の前にいる。
ゲーム終了時の放送が流れた後に、首輪のロックが自動的に解除された。
放送から流れるネギの声は優勝者である夕映をねぎらい、優勝者の表彰を行うので学校の校舎まで戻り、
校長室まで来るようにと伝えた。

ネギに対してはいろいろ言いたいことが山ほどある。
校舎の玄関ホールに入ると、校舎内の案内地図が載っていたので校長室の場所を確認して廊下を歩いていく。
スタート時に大勢居た軍服を着た者達の姿はない。
というより、恐らく廃校になって何年も経つ校舎内は人の居た気配がほとんどなかった。
なんとなく違和感を感じながら夕映は校長室の扉の前にたどり着く。
ノックをするが返事はない。ドアノブを回して部屋の中に入る。
部屋の中は応接室のようになっていて、誰もいなかった。
周囲を見回すと奥の部屋に続く扉を見つける。奥の部屋が執務室になっているのだろう。
主催者であるネギはたぶん、奥の部屋にいるはずだ。
そう思った夕映は応接室を横切って扉の方へ移動しようとしたが、テーブルの上に置いてあった1冊のスケッチブックの
ようなものに目が止まる。
どこかで見たことがあるものだ。
近づいて手に取ると確信する。間違いない、ハルナのアーティファクトだった。

夕映はおかしいことに気づく。
ハルナはゲームの開始時に軍服を着た男達に射殺されたはずだ。
契約した者が死んでしまってはアーティファクトを取り出すことはできない。
ハルナのアーティファクトがここにあるということは、ハルナは生きているということになる。
それとも、これはハルナのアーティファクトに酷似した物なのか?

戸惑いながらも夕映はスケッチブックをめくった。
「こ、これは!?」
スケッチブックの中には、軍服を着た厳つい男達の絵や、『ダークネギ』と書かれたネギそっくりの絵が描かれていた。
ゲームの最初に現れた者たちだ。
夕映の中に一つの仮説が生まれる。しかし、それは夕映にとって信じがたい仮説である。
そんなはずがないと心の中で必死に否定している自分がいる。
夕映は首を巡らして執務室の扉を見つめる。この先に答えがあるはずだ。

扉の前まで歩くと、コンコンとノックをする。
「どうぞ」
と中から女性の声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。夕映は震える手でドアノブを掴むと、ゆっくりと右に回した。
ドアノブは何の抵抗もなく回転する。意を決して、夕映は扉を押し開けた。

執務室の中は、ガランとしていた。壁際には備え付けの本棚が中に何も入っていない状態で並んでいる。
窓の近くには壊れた執務用の机が1台置いてあった。
そして窓際には一人の女性が窓の外を向いて立っていた。
彼女は麻帆良中学の制服を着ており、肩には白い小動物が乗っている。

「ハル・・・・・・ナ?」
恐る恐る夕映が声をかける。
呼びかける夕映の声に女性が振り向く。夕映が予想していた通り彼女は早乙女ハルナ(出席番号14)だった。




<6>
「ハルナ……生きていたのですか?」
夕映は驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべる。
ハルナは何も言わず、笑顔で答えた。よく見るとハルナの肩にはカモが乗っている。
1歩、2歩と夕映に近づくと、ようやくハルナは口を開いた。
「優勝おめでとう、ゆえ」

これは一体どういうことなのか?夕映の頭の中でたくさんの疑問符が浮かぶ。
戸惑っている夕映に向かってハルナがさらに話しかける。
「言っておくけど、ネギ君はここにはいないよ。軍服を着た男達も。そう、最初からね」
その言葉に、夕映は隣の部屋で考えた仮説が真実に近いことを悟った。
「と、いうことは……ハルナ、全ては貴方が仕組んだと言うわけですね?」
「フフン、正解だよ。さっすがゆえ、良くわかったわねぇ」
明るく答えるハルナを見ると夕映の心の中に怒りがわいてくる。
「何を言っているのですか!ハルナ、貴方は……貴方は自分が何をしたのか分かっているのですか!?」
激昂する夕映をハルナが片手を上げて止める。
「まあ待ってよゆえ。最初から説明するからさぁ。あんたも本当のことを知りたいんでしょ?」
そう言われれば夕映も黙らざるをえない。
とりあえずは怒りを抑え、ハルナの話を聞くことにした。
夕映が話を聞く気になったのを見て、満足そうに頷くと、ハルカは語りだした。

「まずはこのゲームについて説明しようか?
 ゆえも気付いているみたいだけど、最初に現れたネギ君も軍服を着た男達も私のアーティファクトで出したものよ。
 簡易ゴーレムは時間制限があるから、あんまり長く出していられないのよね。途中で消えやしないかと思ってヒヤヒヤしたわよ。
 そして、定時放送の時にはその都度ネギ君を出して放送していたってわけ」
全てはハルナのアーティファクトを使ったまやかし、ほぼ夕映が予想した通りであった。
ハルナは話を続ける。
「ゆえは職員室には行っていないのかな?あそこに運営に関わる装置の一式は揃っているんだよ。
 ゲーム中はそこで運営が行われていたのよ。禁止エリアの設定とか生徒の死亡の確認とかね。
 カモ君と私で何とかなったけど結構大変だったんだよ?生徒の数が多かった時は、私の分身まで作り出して作業してたしね」
ハルナは感慨深げにしみじみと語った。
夕映にとってはハルナの苦労など知ったことではない。その他にも気になることがいくつかある。
「あのとき、貴方が撃たれて死んだのも芝居というわけですか?」
「その通り。けっこう熱演だったと思わない?血糊とか使ったんで制服が汚れたけどね。
 誰も近寄らなかったし、……まあ誰かが近寄ろうとしたら軍服を着た男達が止めるようにしてたんだけどね。
 その後すぐにゲームを始めたから私が死んでなかったことは誰も気づかなかったみたいだね。
 もしかしたら疑っていた人はいたかもしれないけど、特に問題なかったわけだしね」
「ネギ先生は……ネギ先生はこのことを知っているんのですか?」
「ああ、ネギ君はこのことは知らないよ。安心した?今回は全てカモ君からの話だよ」

そのときになってようやくカモが口を開いた。
「よう、ゆえっち、驚いたか?心配しなくても今回のゲームについては兄貴は何も知らねえ。俺っちが教えなかったからな。
 ……へへっ、いろいろ知りたいって顔だな?」
カモはハルナの肩から降りて机の上に飛び移ると、話を続ける。
「今回のゲームはある筋からの依頼だ。それがどこかは言えねえが、かなり大きな組織とだけ言っておこう。
 3−Aのクラスメート同士に殺し合いをさせろ。生き残るのは1人だけ。そういう命令だった。
 兄貴にゃこのことは秘密だった。まあ、兄貴に知れたら反対するのは分かっていたしな。俺っちだけじゃ運営はできねえし、
 ゲームを進行させるためにハルナ姉さんに協力してもらったってわけだ」
彼等の行動の理由は分かった。別に黒幕が居るようだが夕映にとってはどうでも良いことだ。
それよりも、夕映にとって最も知りたいことをハルナに問う。
「ハルナ、何故……何故クラスメート同士が殺し合うゲームを運営するのに協力などしたのです?」
「えーだってー……面白そうじゃん」
「エ?」
予想外のハルナの答えに夕映は一瞬固まる。




 

    [管理人の短編一言感想集] その101-A
    夕映が主役の短編。
    個人的には葱坊主氏の短編の中で一番好き。
    by 別館まとめ管理人(YUYU)
    お問い合わせはyuyu_negirowa@yahoo.co.jpまでお願いします。
inserted by FC2 system