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短編No92 あなたがそれを望むなら

 
作者:スレ汚し
掲載日時:2008/01/24(木) 00:10:41
ネギま! バトルロワイヤル


スタート地点となった廃校の入口に二人の少女がいた。
プログラムと言う名目で、見知らぬ廃村での殺し合いを命じられたとある日本の一クラス。雪広あやかはその不運なクラスの委員長だった。
そんな肩書きも意味を成さず、控室代わりの教室から、出席番号順に一人、また一人と校舎の出口兼戦場への入口へ案内される。ついに、自分の名前が呼ばれ、出発を余儀無くされる。
肩にはデイパック。手には支給武器の銃。取り敢えずは心強い護身用具を手に入れ、ホッとしたのも束の間。玄関を抜けた瞬間、早速クラスメートとの再会を果たす。

相手の名は朝倉和美。肩にはデイパック。手には支給武器のナイフ。そしてその切っ先をあやかに向ける。充分過ぎる宣戦布告の意思表示。
あやかも負けじと慣れない手つきで銃口を和美に向ける。

向けたは良いが撃てない。撃ちたくない。
だが撃たねば自分が殺られる。
「出来ませんわ‥私には‥‥」
ならば逃げるか。
無理だ。和美の脚の速さと執念深さには定評がある。すぐに追いつかれて刺されるのがオチだ。

この場を切り抜けるためには殺るしかない。

「あっそ。なら、私が殺してあげる」
あっさりと殺人者の肩書きを肩代わりすることを承諾した和美。
生き抜くことに執着した、獣のように鋭い眼を光らせる。
一歩一歩標的との距離を詰め始めた。


対してあやかは

ボロボロと涙を零しながら、銃を構える両腕を下げた。

「私には‥出来ません‥‥だって」

涙で潤みながらも、その眼はしっかりと朝倉和美の顔を捉えていた。
そして、実に雪広あやからしい笑みを浮かべる。

「朝倉さんは‥大切なクラスメートですもの」

言葉は足りなかったが、想いは充分に詰まっていた。

戦う道しか無いのなら、生き抜くことを放棄する。
一線を越えてしまう前に。
自分が自分でいられる内に。

あやかは目を閉じる。

全てを覚悟するかのように。
全てを受け入れるかのように。

その潔い姿に和美も足を止め、困惑の表情を隠さなかった。
「いいんちょ‥」


「合格だよ」

「へ?」
予想外過ぎる台詞に泣きっ面のあやかは情けない声を発する。
「いいんちょ!」
何者かが自分の名を呼ぶ。
それは明らかに和美の声ではなく、よく言い争いを繰り広げた憎らしくも愛らしい声。
後ろを向き、声の主を探す。
すると間も無く、目的の人物を発見した。
「あ‥アスナさん?」
ドッキリの仕掛人みたいに、してやったり顔の神楽坂明日菜がニヤニヤしてこちらを伺っていた。
明日菜だけではない。
その隣りには、お馴染みの近衛木乃香と桜咲刹那も当たり前のようにいた。
「うちらもいるえー」
「勿論皆さんも」
それが合図だったかのように、あやかを取り囲む形で次々と見慣れた顔が表れた。
図書館探険部三人組や同室の二人、運動部の三人にチアリーディングの三人、その他大勢もしきりに賞賛の言葉を口にしていた。
「合格おめでとー、いいんちょ!」
「あやか‥おめでとう」
「おめでとうございます」
状況を飲み干せない当事者は、見るからに困惑していた。
「これはいったい‥」
見兼ねた和美が声をかけようとするが、ある者がそれを阻んだ。
「おめでとうございます。いいんちょさん」



生徒達の奥から現われた一人の少年。
愛しいその顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
「ネギ先生!」
とても会いたかったはずの少年にも、迂闊に抱き付くことも出来ない。
「先生、いったいこれはどういうことですの?何故皆さんがここに?プログラムとやらは‥」
「それは全部うーそ」
今度こそ、と言わんばかりの意気込みで口を挟むは、つい先程まで生死を掛けた寸劇を共に演じた和美だった。
「これはテストだったの」
「テスト?」
怪訝なあやかの顔が映るゴム製のナイフを、手でぐにゃぐにゃとほぐしながら和美は続ける。
「そ。言わば3-Aの結束力を試すテストよ。仕掛人である私を最後まで殺そうとしなかったら合格。したら失格」
プログラム開始前に全員が装着を余儀無くされた首輪型爆弾。自分の首に巻き付く煩わしいそれを、指先で軽く叩いて意地の悪い顔で和美はあやかに言う。
「その銃には細工してあってね。引き金を引いた瞬間、あんたのコレが‥ボンッ」
血の気が引いた。
無論あやかのがだ。
もし、自分が容赦無く和美の眉間に風穴を開けようとしていたら‥。
数分前の自分の決断を心から称えた。
「大丈夫よ、いいんちょ。今まで3-Aに失格した人は、一人もいないから」
今度は明日菜が話しかけてきた。不安がるあやかを気の毒に思ったのか、安心するような言葉を選んだ辺りは流石親友と言ったところか。
「本当ですの!?」
明日菜の言葉は予想以上の効果を見せた。自分が生きていることも大事だが、3-Aが健在であることの方がもっと大事だ。雪広あやかとはこう言った人物なのである。
「良かった‥」
感激のあまり再度開いた涙腺を、いつもの流れで誰かがまた茶化す。
「‥ちょっといいんちょ!泣いてんの!?」



「朝倉の縁起が怖過ぎたんだよ!」
「うん‥あれは本当に殺す勢いだった」
「ちょっと、何それー!」
「回を重ねる毎に上達してたよ。演劇部に来ない?」
「てゆーか、いいんちょのアレ聞いた?『朝倉さんは‥大切なクラスメート‥」
「あ‥アスナさーん!?」
「クサ過ぎ。何か役入っちゃってますよー、みたいな」
「きー!!このおさるさんが!!」
「誰がおさるさんよ!!」
「また始まったでー」
「お、ヤレーヤレー」
「食券かけようか!」
「まったく。相変わらずです」
「くだらんな」
「あははー、いつも通りやなー。なー、せっちゃん?」
木乃香の何気ないこの言葉。
あやかは本当に嬉しかった。
またこうやってみんなで騒ぐことが出来て。
もう二度と、こんな一時は訪れないと思っていた。
「はい、雪広さんが失格ではなくて、本当に良かったですね」

(失格‥)
その言葉だけがあやかは妙に引っ掛かった。
(失格と言えば‥)


「ネギ先生。そろそろ次の人の準備を」
律義な茶々丸が進行の促しを勧めてきた。
「そうですね。朝倉さん、よろしくお願いします」

「OK!」
役者和美を一人残し、あとの全員は認識阻害の魔法がかかった区域で身を潜める。勿論その事実は魔法バレしている生徒しか知らない。
「次は誰だ?」
「さっちゃんっすよ」
「あー、さっちゃんなら問題無いね」
「しー!静かに」
ぞろぞろと控え位置に向かいつつ、声量を落とし、内緒話のように互いの顔近付けて会話する生徒達。
目を細め、思い出す。ネギが赴任して来る前のこのクラスを。仲が悪い訳では決してなかった。けれど、生徒同士の絆は、今よりも浅かった。
「良いクラスになりました‥。3-Aは」
委員長と言う立場でずっと見守ってきたあやかには、とても感慨深いものだった。
「それもこれもネギ先生のおかげです」
純な感謝の言葉に、赤面するネギ。
「いえ、僕なんて何もしてませんよ」
紳士たれ謙遜が様になっていた。
視線をクラスメート達に戻し、ネギは吐くように言った。
「こんな仲が良くて素晴らしいクラスに、いる訳無いですよね‥」



「クラスメートを手に掛ける人なんて」



「クラスメートを手に掛ける人なんて」



一瞬返答に困った。けれどすぐに
「‥はい」
あやかは相槌をうった。
「ネギくーん。ちょっとこっちー」
ハルナがネギの名を呼ぶ。
担任である以上、生徒の指名を無視する訳にもいかない。
「はーい」
振り返りあやかに頭を下げる。
「すみません、いいんちょさん。失礼します」
最後まで紳士らしく振る舞う少年は、教え子達の中に消えていった。

あやかはその背中を見てぽつりと吐いた。

「あなたがそれを望むなら」


あやかは気付いていた。


この場に佐々木まき絵だけがいないことに。

何故いないのかは尋ねなかった。

そんな人は3-Aにはいないのだから。

〜Fin〜
 

    [管理人の短編一言感想集] その92
    失格といえば、まき絵。
    まき絵はクラスからはぶられましたとさ。
    by 別館まとめ管理人(YUYU)
    お問い合わせはyuyu_negirowa@yahoo.co.jpまでお願いします。
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