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短編No85 子の心親知らず

 
作者:スレ汚し
掲載日時:2008/01/05(土) 23:41:19
ネギま! バトルロワイヤル


「この先にお父さんが?」
重厚な扉の前に二つの人影。『応接間』と銘打たれた部屋は、胸の内から妙な緊張感を掘り出してくる。
「そうよ」
安っぽいカーペットの上に、高そうなヒールが上品にたたずむ。いかにも『できる女』を彷彿させる、端正な容姿に手入れの行き届いた金髪。タイトさを演出するスーツがよく似合う女性は答える。
「‥‥‥」
しばしの沈黙。間を埋めるように顔も分からない医者がアナウンスで呼び出される。
ここは病院。
この場の当事者達に関係なく、職員一同はいつも通り職務を全うしている。
一方で、父の存在を尋ねた少女は唇を折り込み、高鳴る鼓動を隠そうと努力していた。
だが、それも焼け石に水であり、心境を最寄りの人物に容易に読まれてしまう。
「あら、緊張してるの?」
心配された本人は否定する訳でもなく、逆に質問で応対する。

「マクギネスさんは‥お父さんの部屋見たことある?」
マクギネスと呼ばれた女性は正直に言った。
「ええ、つい昨日もあなたに関する報告でお邪魔させてもらったわ」
自分の父親が若い女性を自宅にあげた事実にも特段反応せずに、さらに問いを追加した。
「汚かったでしょ?」



共感を待っているかのような誘いの言葉に、マクギネスは素直に乗ることにした。と言うより実際に目にしたため、否定のしようが無かった。
「‥汚かったわね」
「汚い」とは、不潔の意ではない。麻帆良学園の教職員宿舎に構える少女の父親の部屋は、元来片付けの出来ない性格が手伝って、そこら中にものが散乱している有様だった。
「やっぱり」
少女は安心したのか、顔をほころばせた。
「ちゃんと掃除して、っていつも言ってるのに。ほんと、私がいなきゃダメなんだから」
面倒見が良い姉が、だらしない弟を気遣う微笑ましい様が、重なって見えた。
(私がいなきゃダメ‥か)
病院用の無個性な寝間着に身を包む、快活な童女の何気ない一言がマクギネスの記憶を逆上らせる。

(確かに、あなたがいないとあの人は‥)


「何だって!?」
煙草の匂いが鼻につく、換気不十分な部屋。辺りに散らばる書類やら資料やらの中から、ようやく見つけ出した足場に立つマクギネス。
「生き残ったのはあなたの愛娘」
「‥‥‥‥‥」
冴えない顔立ちの中年の男は開けた口を塞がなかった。否、塞がらなかった。長い顔がさらに縦に伸びていた。
「第4回"プログラム"優勝者は麻帆良学園女子中等部3年A組出席番号2番:明石裕奈よ」
誰が聞いても理解できるように言い直した。
「‥‥‥‥」
それでも男‥明石教授は黙ったままだった。
「ついさっき決定したみたい。詳細はまだよく分からないけど、彼女が‥ゆーなが生きていることは真実よ‥‥!?」
マクギネスは僅かに動揺した。
教授が尋常じゃない顔つきで狼狽し、顔中に大粒の汗を光らせていたからだ。



「うっ‥嘘だっ!!あのクラスには、化け物みたいな奴等がたくさんいるんだぞ!ゆーなが生き残れる筈が無い!!断じて有り得ない!!」
娘の級友を化け物扱いした父親は声を裏返らせて叫んだ。
「あら、まるで帰って来てほしくなかったかのようなお言葉ね」
熱が籠る教授とは対照的に、マクギネスはあくまで冷静だった。
「あなたも知っているでしょ?プログラムに優勝できるのは、何も腕っ節が強い生徒だけじゃないことくらい」
「くっ‥」
プログラムはこの国では合法だった。つまり、一般人でもそれなりの情報は容易に手に入れることができる。
それは、過去のプログラムの開催場所や対称クラス、歴代優勝者の名前からその末路まで‥。
「意外ね。あんなに子煩悩だったあなたが、こんなこと言うなんて」
「‥‥‥」
マクギネスの言葉を無視するかのように、ふらふらと愛用の机に寄り添い、教授はやはり散らかった卓上から一台の写真立てを引っ張り出した。そこには屈託の無い顔で笑う裕奈と、無理矢理撮らさせられたのであろう固い笑みを浮かべる明石教授のツーショット写真があった。
「君も知っているんだろ?」
遠くを見るような目で写真を見つめ、教授は言う。

「歴代のプログラム優勝者がどんな運命を辿ったかを」
「‥‥」
当然マクギネスは知っていた。
「三人の内二人が精神に深い傷を負い廃人状態。内一人は昨年突如発狂し自殺‥」
渋っても仕方無いので、自分の存ずる情報を明確に述べる。
「そうだ」
突然教授は大切な思い出を保護する写真立てを振りかぶり

ガンッ
パリンッ

床に叩き付けた。
「帰って来たとしても、それは"裕奈"であって"ゆーな"じゃないんだ!!!!」
透明なガラス片が辺りに散らばり、フローリングに傷と窪みが出来上がった。



「あんな最低のゲームに参加させられたんだ‥。おかしくなっているに決まっている!!」
「‥‥」
落ち着きを完全に失い、錯乱状態に陥った一人の父親に、哀むように悲しいまなざしを向けるマクギネス。
「ううっ‥ゆーなぁ‥‥ゆーなぁぁぁ」
娘を愛しているからこそ、重くのしかかる現実。プログラムに参加する以前の裕奈は、彼の主観ではもうどこにもいないようだ。
役目を終え、自分がこの場に存在する意義が見出だせなくなった報告者は、情けない姿をさらけ出してしまった明石教授に背を向け、暇代わりに一言残して明石宅擁する宿舎を後にした。
「‥もし、ゆーなに会いたくなったら私に連絡して。彼女はまだ、健康診断のため日本政府御用達の病院にいるから」
自分が入り込める隙間も、かけてやる言葉も無い一つの親子の形に、己の無力さと嫉妬心をマクギネスは痛感した。
同時に、この役目を買って出たことを激しく後悔した。
自分の口から裕奈の無事をあの人に伝えてあげたかった。
一緒に喜んであげられると思っていた。
しかし、ことはそううまくは運ばない。

故に、面白くない。


そして昨日、マクギネスの携帯電話に一本の着信があった。
発信主は明石教授。
内容は単純明解。自分の娘に会わせてほしい、と言うものだった。
(勝手な人‥)
呆れながらも先の場での宣言通り、再会の場をセッティングした報告者改め仲介人は、約束した時間に明石裕奈を連れて来た。


「では、そろそろ私は失礼するわ」
自分の役目はここまで。
「マクギネスさんは?」
「親子の感動の再会に部外者は不要よ」


「さよなら」をきちんと残し、マクギネスは踵を返す。
そんな自分の背に「ありがとう」の声が追い付いた。
薄い笑みを浮かべ、部外者は応接間から離れていった。
(間違ない。あの娘は友達を殺したりしていない。優勝できたのは本当に偶然‥)
瞼に焼き付いて離れない眩しい笑顔が、十二分に主張していた。
(安心なさい教授。ゆーなは、"おかしく"ないわ)
すると

ぎぃっ

重たい扉がゆっくりと開き

ぱたんっ

ゆっくりと閉じた音がした。
何だかんだ言ってマクギネスも二人の様子が気にならない訳ではない。歩きながらも、耳に入る効果音を拾い集める。
今彼女は扉を潜った。
理由は一つ。
その先に逢いたい人がいるから。
たった一人の家族がいるから。

お父さんっ

盗み聞きとは質が悪いが、聞こえてしまうものは仕方が無い。
裕奈の声が廊下にも微かに響く。



ぱたぱたっ

あぁ、これは彼女の履いているスリッパの音だ。
無意味に足に纏わりつくせいで、駆け足にすら苦戦しているのだろう。

目に浮かぶ。
今のゆーなの顔が。
今のゆーなの姿が。
涙を浮かべながら、教授に走り寄り、抱き付こうとし





パァァァン


「!!!!!!!!!!!!!!」

渇いた銃声が、マクギネスの思考を強制中断させる。
ゆっくりと
至極ゆっくりと細い首と碧い眼を扉に向ける。
明石裕奈が吸い込まれていった扉に。
中で明石教授が待っているはずの扉に。
間違ない。発砲音の発生場所はあの中だ。
(まさか‥)
おかしいと思っていた。
娘の生存をあんなにも拒絶していた男からの、突然の再会依頼。
(まさか‥‥)
これだけは絶対に有り得ないと高を括っていた。
この一線だけは確実に越えないと信じていた。




「これが‥あなたの結論‥‥‥?」


パァァァン


二度目の銃声が響いた。
そして涙が流れた。

「バカ‥ね。あれは紛れも無く、あなたの愛した"ゆーな"だったのに」


涙は
止まらなかった。

「バカ‥‥‥‥バカ‥」
涙腺の分泌液からは後悔と絶望と喪失感と納得と悲哀と失恋の味がした。

「親の心子知らず‥‥‥いえ、この場合は逆かしらね」



応接間には、娘と父と思われる親子の遺体と、二人分の命を奪った拳銃と、ただただ赤い血だけが残されていたという。



以上です
登場人物が分からない人は原作の19巻辺りを参照して下さい
スレ汚してすみませんでしたm(_ _)m
 

    [管理人の短編一言感想集] その85
    マクギネス短編初登場作品。
    これは上手い。正しく親の心子知らず、いや、子の心親知らず、でした。
    by 別館まとめ管理人(YUYU)
    お問い合わせはyuyu_negirowa@yahoo.co.jpまでお願いします。
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