参加者以外、誰も居ない住宅地を、裕奈は一人で歩いていた。
極力音を立てずに、おそるおそる民家の玄関のドアを開く。もし、中にゲームに乗った参加者が居れば、
少しのミスが命取りになる。そして、裕奈はそっと中の様子を確認する。
そして、脱力した―――
不意に耳に飛び込んで来たのは、誰かが侵入してきた足音。突然の出来事に、亜子は思わず身を縮ませる。
(だ、誰やろ……?)
見付かったら、殺される。
背筋に冷たいものを感じながら、亜子は押し入れの中に隠れた。
―――ここまで誰にも逢わずに済んだのに。
亜子に、自分が他の生徒を殺すなんて発想は無い。あるのは、見付かったら殺されるという強迫観念だけ―――
(でも、ゆーなやまき絵、アキラだったら―――)
此処に来たのが、数少ない信用出来る親友だったなら。
淡い期待。
そんな都合の良い話がある筈も無い。こっそりと亜子は自嘲気味に溜息をこぼす。
だが―――
侵入者の足音は真っ直ぐに亜子の居る部屋に近付いてくる。そして、躊躇いも無くドアが開かれた。
(なんで!? なんでウチがおるのがバレとるん!?)
思っていたより早く訪れた危機に、亜子の身体が小刻みに震え出す。
カツンカツン、と響く足音。
相手は部屋の真ん中で足を止めた。最早、見付かるのも時間の問題である。
恐怖に顔を歪ませながら、亜子は必死で息を潜める。そして―――
「亜子いるんでしょー?」
まるで普段通りの挨拶みたいに、あまりに脳天気な裕奈の声が部屋中に響いた……。
「へっ!? ゆ、ゆーな?」
条件反射で、亜子はついうっかり答えてしまう。そして、亜子がしまった、と後悔する間も無く、
押し入れの戸は開かれたのであった―――
「亜子みっけ♪ 大丈夫だった? どこもケガしてない?」
そこにあったのは、いつもと同じ裕奈の笑顔だった。張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れ、
亜子はくたーっ、と体勢を崩してしまう。それを見た裕奈はくすりと微笑んだ。
「もう……、しんぞー止まるかと思うたわ。脅かさんといてえな、ゆーないきなり上がり込んでくるんやもん……」
亜子の抗議に、裕奈はにやにやと不敵な笑みを浮かべる。そして、きっぱりと言い切った。
「そりゃあさ、中に居るのが亜子だって分かったからね〜♪ 後は亜子が隠れてそうな一番奥の部屋を探すだけだし」
「な、なんでウチがおるのが分かったん?」
亜子が不思議そうに尋ねると、さすがの裕奈も苦笑を禁じ得ない。やれやれとばかりに、裕奈は答えた。
「いくらなんでも殺し合いの最中にさ、ご丁寧に靴を脱いで家に上がるのはどうかと思うよ……」
「―――あ。」
瞬く間に亜子の顔が恥ずかしさのあまり紅潮していく。
「いや〜、第一発見者があたしでよかったよ〜。ゲームに乗った人だったら間違い無くやられてたね♪」
「あ、あはは……、つい、いつものクセで靴脱いでもうた……」
真っ赤になりながら弁明する亜子に、裕奈はこの先亜子を守っていけるのか、一抹の不安を感じていた―――
(おしまい)
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