「刹那! 何をやってるんだ! 私と代われ〜〜ッ! 」
龍宮真名の呼び掛けが桜咲刹那の耳に届いたのはこれで何度目であろう。
タッグマッチルールで始まったこのバトルロワイヤルで、真名は迷わず刹那をパートナーに選んだ。
同じ掃除屋として気心は知れている。サバイバルを生きていくうえで当然の選択だった。
別れ際の木乃香たちの顔を心配そうに見ていた刹那の視線、真名はあえて気づかない振りをしてその場を去った。
そして今、二人は最初の対戦者達と激戦を繰り広げていた。
1対1で各々が応戦するものの、事態は圧倒的に不利。
特に刹那は先ほどからろくに反撃をしようとせず、一方的にサンドバッグにされていた。
刹那は動こうとしない。いや、動けないというべきか―――
「さ……五月さん……あなたは超鈴音に騙されているんだ……目を、覚ましてください……」
「ダメです。止めませんッ! 」
そう、今まさにマウントポジションをとりながら鈍器で刹那を攻撃しているのは……
超にそそのかされ、最初の会場で決意を固めていた四葉五月その人だった。
刹那の忠告に耳を傾けず、シェフがひき肉の下ごしらえをするかのように五月は凶器を叩き続ける。
惜しみないその残虐性と潔さは真名ですら不快に感じるほどだ。
「もういい、刹那。私がオマエを無理矢理にでも動かしてやる――足でな!」
真名に蹴り飛ばされ吹き飛ぶ二人。
「仕事の関係とはいえ、随分と仲間にキツイあるネ」
「あんな腑抜けは蹴り飛ばされて当然だ。」
超の嘲りを鼻で笑い飛ばし、五月と睨み合う真名。
「忘れたか四葉。その昔私は「四階音の組み鈴」でブイブイ言わせた狙撃超人だったんだぞ?
貴様の料理殺法なんざ甘っちょろい〜っ。血も涙も無い本物の殺し屋の戦いってヤツを私が見せてやる。
狂乱の魔眼(マッドネスデビルアイ)〜ッ!」
真名は自分の眼を輝かせながら素早く関節技をきめ、続けざまに首を絞めあげた。
しかし五月もおめおめとやられるつもりはないようだ。必死に抵抗しようと真名の腕に噛み付きにかかる。
ところが……!真名はすかさず五月の口に手を突っ込み舌をつかむ。
「フッ噛み付けるものなら噛み付いてみろ。どうせ吹き出し無しのセリフしか言えないオマエだ。
こんなものいらないだろう! リャァァァーーーーッ! 」
舌を掴んだまま五月を一本背負いした真名はトドメと言わんばかりにナイフで何度も何度も突き立てる。
「ワハハハ〜ッ! 久々の銃を使わない凶悪ファイトは身も心もスッキリする。
やはり私はこの戦い方が合っているのかもな! 」
「た、龍宮……オマエ自分のクラスメイトになんてことを!
私達みんなで協力して脱出しようとしている算段ではなかったのか!? 」
「悪いな刹那。私は心に潜むクラスメイト全員を倒して生き残りたいっという欲望には抗いきれない」
「それじゃ私とのタッグ、スィーパー・トリニティーズは解消するのか〜っ!? 」
「既に戦意を失いヘタレ化したオマエをタッグパートナーとは思ってないさ。
私はこれからひとりでスィーパー・トリニティーズとして戦う……? 」
「「バ、バカな……!」」
同時に声をあげた真名と刹那。それもそのはずだった。
先ほど何度もナイフで貫かれたはずの五月が平然としているからだ。
そしてナイフの刺した箇所の肉体部分が突然隆起したのであった。
「ウグアァッ……! 」
隆起した肉体はまるで岩のように硬く、まるでハリセンボンのトゲのように真名の体に突き刺さる。
そう、ナイフで刺された部分がまるで弾力のあるゴムのように跳ね返ってくるかのように……。
まさしく、五月ならではの皮下脂肪を利用した戦術的かつ本能的防衛手段なのであった。
刹那は五月の体が先ほどよりパワーアップしていることに気づく。
まるでセイウチンがスカーフェイスの攻撃を受ける度にパワーを吸収し、
それを増幅(イクスパンション)させて自分のパワーにしているかのような五月の変貌ぶりは、
まさしく――――「狂戦士」。
「……フン本番はこれからだ !私のこの技をくらって無事なヤツはいない……【羅漢銭『ナイフバージョン』】!!
どんな怪物だって……いや!たとえ神でもだーっ!」
五月の底知れぬ力に動揺しながらも、真名は自分の十八番である射撃術を繰り出した。
五月の額にめがけて飛んでいくナイフ! 小銭ですら人一人吹き飛ばす威力のあるこの技で、先の尖ったナイフが使われる。
当たれば間違いなく一撃必殺である!
「ヒョヒョ〜ッ!きたネきたネ〜っ!」
自分のチームメイトが窮地に陥っているのに止めるどころかむしろ望んでいるかのような超の声に二人はハッとする。
そして再び五月に視線を戻すと……ナイフは、しっかりと五月にキャッチされており、そのまま握りつぶされて粉砕した。
「ヒョヒョ〜っ。五月の残虐性、敏捷性……それら全てを含めた戦闘能力を目覚めさせるには実戦の経験が必須ネ。
そしてそれには龍宮サンと刹那サンが適任だと思っていたが……二人でタッグを組んでくれるとはラッキーだたヨ♪
早速五月と手合わせしてくれてありがとネ。
――――――――まさに目論み通りネ」
絶対絶命の状況に青ざめる龍宮真名と桜咲刹那。もはや彼女達の戦意は根こそぎ刈り取られてしまった。
そして今、その戦意は目の前にいる――かつて料理人だった――狂戦士に料理され、食べられ、腹の中だ。
二人はこの瞬間、敗北を確信した。
自分達はここであの天を目指す二人の膨張(イクスパンション)に飲み込まれてしまうのだと。
そして自分達はそのためにこれから想像を絶する恐ろしいことをされるのだと……。
<了>
|