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短編No52 ニンゲンカンサツ

 
作者:マロン名無しさん
掲載日時:2006/12/12(火) 02:27:40
ネギま! バトルロワイヤル


一体、どうしてこんなことになったのだろう?
「逃げ、て……」
悲しみで埋め尽くされたこの島から、もう出られるって思ったのに。
いったい、どうして――

“絶対一緒に生きて帰ろう”

今まで二人を支えてきた約束を、目の前の親友は破ろうとしている。
私を押し退けてまでその場所に立ち、あまつさえ自分を置いて逃げろと言うのだ。
「嫌ッ……円を置いてなんかッ………」
「お願い……早……く……」
釘宮円(出席番号11番)の胸から生えた黒く鋭利なソレは、親友のために投げ出された円の体を難無く横に切り裂いた。
右胸から左肩までをバッサリと切り裂かれた円だった物は、椎名桜子(出席番号17番)の目の前でドサリと崩れ落ちる。

『桜子、私達、生きて帰れるんだよ!』

二十分ほど前には笑っていた円が再び笑顔を見せてくれることは、もう二度とない。
警戒を怠って、一人で勝手に突っ走った私なんかをかばったせいで。

ごめんね――明日菜の声でさ、本部を制圧したって放送があったじゃん?だから、もうみんな戦う気なんて無いと思い込んじゃってた。
ごめんね――本当なら、私が死ぬべきだったのにね……
ごめんね――謝って許してもらえることじゃないけど、本当にごめんね。
ごめんね――やっぱり私、一人で逃げれそうもないよ。円から離れたくない。
あの時円が私に声をかけてくれなかったら、きっとあのまま飛び下りてたもん。
あの時円が明日菜に銃をあげてなかったら、きっと明日菜は本部を制圧できなかったもん。
全部、円のおかげなんだよ?
なのにおかしいよ、円が犠牲になるなんて。
絶対におかしいよ、私だけが明日菜達の元に行くなんて。


「………逃げなくてもいいんですか?」
首元に、円の命を奪ったザジ・レイニーデイ(出席番号31番)の長く鋭利な爪が突きつけられている。
それでも桜子は顔を上げず、円の亡骸を抱き締めていた。
やれやれと言った風に、ザジがふぅっと溜息を付く。
「……さようなら、椎名さん」
つまらなそうにザジが宣告するのとほぼ同時に、パン、という乾いた音が響いた。
「………」
脇腹に銃弾を受けたザジは、弾の飛んできた方向を見つめ左手の爪もスルスルと伸ばすと、狙撃してきた者が潜んでると思われる茂みに向かい駆け出した。
迫り来るザジを見て、柿崎美砂(出席番号7番)は姿を隠すことを放棄して立ち上がると再びザジに向けて支給武器であるコルトガバメントの引き金を引く。
三人ものクラスメートの血を吸った銃から吐き出された弾丸は、確かにザジの体に侵入したはずだった。
なのに、ザジは止まらない。
少なからず動揺した美砂の眼前に迫るザジが、僅かに口元を歪めたように見えた。
「なんっ……」
これが日の昇っている時間で、なおかつ二人の距離が近かったなら、美砂は不自然に盛り上がったザジの制服に気付けたかもしれない。
制服の下に防弾チョッキを着込んだザジにダメージはなく、その鋭い爪で美砂の右肘から先を本体から切り放した。
「ッあ゙ぁア゙アァアぁァあぁ」
奇声に近い叫び声を上げ、断面を押さえうずくまる美砂。
その顔面に衝撃が走り、ギャグ漫画のように鼻血を吹き出しながら仰向けに倒れた。
続いて腹の辺りに激痛が走り、何をされたか理解できたころには右耳を切り取られていた。



即死しない程度に腹を刺し、耳を削ぎ、そして、美砂に背を向ける。
とどめは、まだ刺さない。
ザジにとっては、死を逃れられない状況に陥った美砂を観察することが何よりも大事だった。


爪を伸ばせることからもわかるように、ザジはニンゲンではない。
それでも彼女はニンゲンを愛し、ニンゲンとして生きることを決めた。
本来は躊躇なく顔面を蹴りあげるなんてこととてもできない心優しい彼女は、最初は“愛しい存在であるニンゲンが醜く殺し合うのは見るに耐えない”という理由でゲームに乗った者を殺して回った。
最初に遭遇し殺害した長谷川千雨(出席番号25番)は、腹を貫かれた際微かに笑みを浮かべていた。
イカレた状況の中で狂ってしまいザジに発砲した彼女は、殺人鬼にならずに済んだことにほっとしてるようにも見えた。
次に殺した鳴滝風香(出席番号22番)は、「最後まで守れなくてごめん」と呟きながら死んでいった。
妹である鳴滝史伽(出席番号23番)を生かすために己の手を染めたのだろう。
その史伽を恐怖のあまり殺害してしまった佐々木まき絵(出席番号16番)は後悔の中、意識を失うまでひたすら史伽に謝り続けていた。

そしてザジは思った。
ニンゲンは脆く、儚く、そして弱い。
だが、死を受け入れ、自身の中の純粋な部分に――正直な気持ちに気付く姿は何よりも美しいと。
儚いからこそ、最後の瞬間の輝きは他の追随を許さない生物なのだと。

それからは出会った者は皆殺しにしてきた。何かを思う時間を与え、結果的に楽には殺さないというもっとも残忍な殺し方で。
最期までザジを信じてくれた者や、ゲームに乗ったザジを悲しそうに見つめる者もいた。
そんな者を見ても、ザジは“あぁ、なんて清らかな心。やはりニンゲンは死ぬ瞬間こそ美しい”としか感じなかった。
死を覚悟してまで親友の身代わりとなり、最期の瞬間まで親友を逃がそうとした円を、やはりザジは美しいと感じた。
今度は美砂に美しさを見い出すために、美砂を楽には殺さなかったのだ。
大好きな人間を“助ける”はずであった少女の目的は、いつしか大好きな人間を“鑑賞”することになってしまっていた。


「…………」
悲鳴を上げながら蹲る美砂を、ザジは冷たい目で見下ろす。
せっかく与えた時間をただ苦しむためだけに使われても美しくない。
美砂に興味を無くしたザジは、今度は桜子を殺そうと美砂に背を向け、そして油断したまま地面に額をこすりつけた。
美砂に押し倒されたのだと理解出来たのは、首に圧迫感を感じてからだ。
「………がッ……」
片腕を失っているのに、油断した隙をついて首を絞めてきた美砂。
どうせ出血多量で死ぬのに、痛い思いをしてまで敵を道連れにしようとするその姿に、やはりザジは美を見い出した。
「や……はり……ニンゲンはイイ………」
恍惚の笑みを浮かべると、美砂を背負うようにして立ち上がる。
美しく最期を飾らせてやりたいが、死ぬつもりは毛頭無い。
もうそろそろ楽にしてやろうと美砂を地面に叩きつけた。
「くぁ……ッ」
肺の中身全てと血反吐と吐き出し、顔を歪めて美砂は呻いた。
伸ばしたその先端を、弓なりに撓る彼女の体に突きつける。
「う、動かないで!」
あぁ、彼女もまた、友のために己の手を汚そうというのか。
あの震えようからすると、今までただの一発も撃ったことなどないだろうに。


桜子は震える手でザジに銃を向けている。
「美砂から……美砂から離れて!」
「さ……くらこ…………」
「美砂、逃げて!腕が痛くてもいいから逃げて!彼氏に会うまで死ねないんでしょ!?」
一度、桜子は美砂に会っていた。そして、仲間に引き込もうとして断られた。
愛する者の元に帰るため、自分は手を染めると言い残し自分の前から消えた美砂が死ぬなんて嫌だ。
自分と違い生へ執着していた美砂が死ぬなんておかしい。

桜子は知らない。今手にしている銃に、もう弾は入っていないことを。

(全てを読むにはワッフルワッフルと書き込んでください)
 

    [管理人の短編一言感想集] その52
    ワッフルワッフル(笑)
    残念!この短編は中途半端に終わっていました。でも、この短編、割と好きな部類。
    by 別館まとめ管理人(YUYU)
    お問い合わせはyuyu_negirowa@yahoo.co.jpまでお願いします。
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