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短編No43 間違っちゃいない!

 
作者:◆wKs3a28q6Q
掲載日時:2006/06/23(金) 02:05:27
ネギま! バトルロワイヤル


「う……あッ………」
いてぇ。身もだえずにはいられないほど痛ェ。
いっそ感覚がなくなっちまった方が幾分マシだ。
制服の三分の二を赤黒く染めるほど出血してるっていうのに痛みが引かねぇのは人殺しへの天罰ってか?
だとしたら私に鉛玉を贈りつけてきた桜咲刹那(出席番号15番)に私の弾が一発も当たらねぇってのは些か不平等じゃねぇか。
クソが、容赦なく反撃してきやがって!
見ろよ朝倉、やっぱりどいつもこいつもやる気なんじゃねぇか━━━

傷を負った右の脇腹を左手で押さえながら、長谷川千雨(出席番号25番)は右手の拳銃へ視線を移す。
『ちうちゃん!………よかった、無事だったんだ』
その拳銃は、お人好しの朝倉和美(出席番号3番)が愚かにも千雨に渡した物だ。
『あ、この銃、ちうちゃんに預けとくね』
『はぁ?』
『こうでもしなくちゃ私のこと信用してくれないでしょ?』
その銃で撃ち殺されるなんて思いもせず、笑いながら銃を渡すなんて、馬鹿としか言いようがない。
『こんな馬鹿げたゲームに乗るような奴、いるはずないよ。明日菜達探して一緒になんとか脱出しよ?』
━━━ハッ。どうせお前も口ではそう言ってても腹の底じゃ私を利用して優勝しようって思ってたんだろ?
『……ちうちゃん……』
━━━そんな目で私を見るな!脅えろよ!泣けよ!憐れまれんのは私じゃなく、お前の方だろうが!
『はは……悲しいな……ちうちゃんのこと、けっこう好きだったんだけどなぁ』
「………るっせぇよ………」
頭の中で何度も再生される朝倉の映像にイラつき、傷口をえぐるように押さえ付ける。
武器を捨てておとなしく出て来い云々と叫ぶ桜咲も耳障りだ。
私は間違っていない。
みんなやる気なんだ。だから全員ぶっ殺す。殺られる前に殺る。
私は、何ひとつ、
「間違っちゃいねぇんだぁぁッ!」
誰にともなく叫びながら廊下へ飛び出し、玄関口に立つ桜咲に銃を向けた。

一瞬だけ朝倉と同様に桜咲が顔を歪めたのが見え、全身に衝撃が走るのと同時に天井しか見えなくなった。
もう痛みは感じない。
マシンガン相手に勝てるとも思わない。
それでも、踏ん張りのきかない足で千雨は立った。
日頃から孤立していたため周りを信用できず、一人生き残ると決めたこの島で最初のマーダー。
誰も信じない冷徹な殺人者と化した彼女は、戻れないところまで墜ちたことを認めたくなかった。
だからこそ、勝ち目はなくとも発砲する。
自分を否定できるほど、彼女のココロは強くないから。
自分は正しいと思ったまま死ねるよう、震える指で引き金を引いた。
「……ぁがッ!」
穴ぼこだらけの体にはいささか反動が強かったらしい。
明後日の方向に弾丸を飛ばし、無様にも四分の一ターンを決め背中から壁に激突した。
足から力が抜け、壁にもたれかかるようにずり落ちる。
「せっちゃん!な、何やっとん!?」
「お嬢様……」
玄関の方から何か話し声が聞こえる。
新たな声の主は近衛木乃香(出席番号13番)のようだ。

「お嬢様……彼女が…長谷川さんが突然発砲してきたんです……」
「せやかて、発砲なんかしたらあかんやん!長谷川さん、怖かっただけかも知れんやん!不安だっただけかも知れん!」
「お嬢様………ですが、こちらが攻撃を止め呼び掛けた際にも彼女は攻撃を止めませんでした」
「でも……」
「……申し訳ありません。お嬢様を危険な目に合わせたくないという気持ちでいっぱいで……」
うざってぇ。こちとら人生の閉幕ベルを鳴らそうとしてんだ、レズビアンごっこはよそでやれ。
━━近衛、やっぱりお前は大嫌いだ。
偽善ぶって私を撃った桜咲を咎め、なんだかんだで桜咲にだけ手を汚させて生き残るんだろう?
まったく、反吐が出るぜ。
「……もう、誰も私の目の前で死んでほしくない……私はみんなと手を取りたいんよ!」
━━━ハッ!馬鹿じゃねぇの?
みんな一緒に生き残れるなんて本気で思ってんのか?おめでたい馬鹿だな!
「夏美ちゃんと那波さんが心中するんも止めれんかった!目の前におったのに、私はなんにもやれんかったんや!もうあんな思いはしたない!」
ふうん、あの二人は自殺だったのか。だから何だって話だが。
「あーあー、第三回放送を始めるぞー」
朝倉は私が殺した。この手で、奴の腹に何発も鉛の弾を送り込んだ。
あの時もくそムカつく放送があったんだよ。銃を突きつけられた朝倉の偽善的なセリフを聞かされて、禁止エリアをひとつ聞き漏らしちまったんだ。
それでCだかEだかと言ってたなんていう曖昧な記憶を頼りにここ、D−4に引き込もってたんだよ。
二人も死んで、殺し合いが始まってるんだと実感し少し冷静さを欠いてたとはいえ、放送の最中に朝倉と口論の末いきなり射殺したのは我ながら不味かったと思う。
おかげで、声を聞き付けショットガン持参でやってきた委員長をやりすごすのに苦労するはめになった。

「今回は死亡者無しだー、もっと頑張らないと首輪爆破だぞー。次、禁止エリアなー」
はは……んだよ、誰も死んでないのかよ。
銃声が聞こえないと思ったら、どいつもこいつも逃げ回ってんのか。
このまま全員首輪爆破で心中するつもりか?
まったく、馬鹿ばっかりだぜ。
『はは、はっきり言うねー……確かにちうちゃんに銃を渡すのは馬鹿なことかも知れないけどさ、賢いってのがこの場でちうちゃんに銃を向けるってことなら、私は馬鹿の方がいいよ』
ホントに、どいつもこいつも
『みんなだってそう。うちのクラスはさ、自分のことより他人のことを考えちゃうような馬鹿の集まりなんだよ』
馬鹿、ばっかり………
『だから、そんなマイナスに考えないでさ、諦めないで一緒に……』
「長谷川さん!」
「いけませんお嬢様!」
桜咲の静止を振り切り、近衛の馬鹿が私に駆け寄るのが視界の端に映る。
「死なんといて、お願いやから!一緒に……一緒に脱出の方法考えよ?一緒に生きて帰ろ!みんな、一緒に……」
━━うるせぇんだよ。
「何で……どうしてなん?」
拳銃を向けられ悲しそうに顔を歪める近衛の手を取り、この場を離れるよう桜咲が促す。
「長谷川さん……」
「…………」
「………行きましょう、お嬢様」
チラリとこちらを見、それから近衛を無理矢理連れていく。
視界から、ようやく二人の姿が消えた。

━━桜咲の奴、全てを悟ったような面して行きやがった。
一人で静かに死なせてくれるのはありがてぇが、あの面は少しムカついた。
いきなり襲った私にまで気を使ったって感じなのが妙に腹立たしくて
『みんな一緒に生き残れるなんて本気で思ってんのか?おめでたい馬鹿だな!』
自分が殺されるかもしれないのに。
『んだよ、誰も死んでないのかよ』
このまま誰も死ななきゃ全員死ぬってぇのに、まだ三人しか死んでないんだぞ……
『ふうん、あの二人は自殺だったのか』
━━結局私しか殺してねぇんじゃねぇか。
『こんな馬鹿げたゲームに乗るような奴、いるはずないよ』
やる気あんのかよ、クソ………
「ホント、馬鹿ばっかりだな……」
なんとか顔を動かし、再び朝倉から奪った銃へと視線を向ける。
ぼやけた視界に、朝倉の顔が映ったような気がした。
━━私は、何にも間違ってない……殺されそうだから、殺したんだ……
『んー、頑固だねぇ、ちうちゃんは』
━━あぁ?
『あぁ、それよりさ、頼みたいことがあるんだけど』
『却下。帰れ』
これが、走馬灯ってやつなのか………?
『そんなこと言っていいのかな〜?』
『ぐッ……テンメェ……』
そういやアイツ、よくちうの写真を餌に私を利用してやがったな……。
『まぁまぁ、お昼御飯くらいなら奢るからさ』
そのくせ、変なところで私に自由を与えたり。
『わざわざトイレの個室にこもってまで修学旅行先でサイト更新するなんて変わってるね〜。たまにはそういうの抜きで楽しもうとは思わないの?』
『教師の唇奪わせるなんてバカみたいなゲームをわざわざ開催したお前には言われたくない』
………何でだよ。
『えーっ、でもなんだかんだで楽しかったでしょ?』
『んなわけねーだろ眠いわ足痛いわで最悪だったっての』
何で、コイツのことばかり思い出すんだよ………
『ちうちゃんのこと、けっこう好きだったんだけどなぁ』

「あ……さくらァ………」
結局、勝手に周りを疑って、自分一人だけが殺人鬼になってしまった。
認めたくなかった現実が、虫の息の千雨に重くのしかかる。
「お前の……言う通りだ……」
どいつもこいつも、クラスメートを殺して一人だけ生き残ろうなんて考えてなかった。
他人のために自分を犠牲にする本物の馬鹿の集まりなんだ、このクラスは。
━━━━━いや、違うな。そうじゃないよな。アイツらは何も間違っちゃいないんだよな。
「私が……馬鹿だったんだな………」
どんなに辛く理不尽な目にあっても、初めての人殺しに全身震えるほどの想いをしても、この島に来てから一度も━━━
いや、それよりもずっとずっと前から流すことのなかった涙が、静かに千雨の頬を伝う。
その滴が首筋まで流れたときには、もう千雨の意識はなくなっていた。
最期に己の過ちに気付いてしまい、後悔と自責の中死んでいったのだ。
それと引き替えに、自分に友情を向けてくれた者がいたんだと知った彼女の最期は、はたして幸せなものだったのだろうか。
それとも、さらに苦しむこととなり冷たく重い自業自得の辛い最期だったのだろうか。
それは、もう誰にもわからない……
 

    [管理人の短編一言感想集] その43
    GJ。千雨の死ぬ間際の気持ちが、かなり伝わります。
    やはり、千雨視点のストーリーは特徴がありますね。
    by 別館まとめ管理人(YUYU)
    お問い合わせはyuyu_negirowa@yahoo.co.jpまでお願いします。
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