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短編No22-A バトロワ外伝(前編)

 
作者:マロン名無しさん
掲載日時:2006/01/06(金) 23:36:37
ネギま! バトルロワイヤル


「今日は、皆さんにちょっと戦争をしてもらいます」

揺れる足元をものともせず仁王立ちとなったジャージ姿の少年先生、
ネギ・スプリングフィールドが元気良く宣言した。少年の後には、
迷彩服に身を包んだ筋骨逞しい軍人が、手を後に組んで直立不動状態。
二人の軍人は、ネギに付随する絶対的権力の象徴であった。
ネギと女子生徒達の距離は1メートル程にも関わらず、断絶は海よりも深かったが、
それは一重に2人の軍人が発する威圧感と表すべき存在感によるものだった。

対する彼の生徒であるクラス3Aの面々は、
目覚めたばかりと云うこともあってか、ネギの発言内容が全く理解出来なかった。
いや、出来たとしたらそれはそれで異常であるが、
残念ながらクラス3Aの面々は常識と云う言葉とは無縁である。
睡眠薬を打たれた結果である深い眠りから覚醒したばかりにもかかわらず、
何名かの生徒が跳ね起きるとネギを鋭い目で睨んだ。

「ネギ先生。冗談が過ぎるぞ。
4月1日エイプリルフールにはまだ程遠い」

褐色の肌にエキゾチックな顔立ちの長身女性、龍宮真名が真っ先に発言した。
普段ネギに話しかける時の彼女の声は、弟に接するような温かみがあった。
今の龍宮の声には、貫き身の真剣の冷たさのみがある。
彼女の声はネギに向けて放たれたにも関わらず、
龍宮の周囲で床をのたうっていた生徒達が、
首筋に氷を入れられたようにはね起きた。

だが、ネギは龍宮の言葉を真正面から受けても顔色一つ変えなかった。
教壇に立ち、教科を丁寧に教える時のように笑みを崩さない。
日常からネギのことを良く知り、なおかつ龍宮と同じく神経を貼り詰めさせている
長瀬楓、桜崎刹那、両名の表情が驚愕に歪む。龍宮も眉をゆがませる。
彼らの知るネギは、こちらが真剣な態度で切り込むとまず動揺し、
一度心を立て直してから相手と向き会う。目の前のネギには、その動揺がない。

(このネギ先生はニセモノか?
それとも、この落ち着き具合がネギ先生の本性なのか?
私・拙者・私は、彼の姿を見抜けなかったとでもいうのか?)

三人の思考は期せずしてシンクロした。

「う……ん……あれ、ここは? ここはどこ?」
神楽坂明日菜がうめいた。たまたま龍宮の傍で寝転んでいた為、
冷気を直接浴びて眠りから呼び戻されたのだ。神楽坂明日菜は眠そうに目をこすると、
周囲を見渡した。黒板も机も椅子も無い。ここは教室ではない。
左手側にある壁には小さな窓がいくつも並び、
そこから灰色の空が広がる。足元が揺れる。
気分が悪い。私、病気?

「違います。ここは海上自衛隊輸送艦の上です。
 みなさんを運んでくださっている自衛隊の方に感謝しましょうね」

ネギは朗々と云った。

この頃になると、クラスの大半の生徒は目を覚ましていた。
皆一様に狐につままれたような表情を浮かべている。無理もない。
彼らの最後の記憶は、緊急集合と云うことで3Aクラス全員が
小さな第二体育館に集められた所で途切れていたから。
何事かとかましい女子生徒達が騒いでいると、扉から突然白いガスが吹き出し、
そこで彼らは夢の世界に連れさられたのである。

「えっ、ここ何処?」
「じえいたい……なんで自衛隊が?」
「私、どうしたんだろう……えっ、なんか首が変」
「ちょっと亜子、あんた、首輪つけてるわよ!」
「うそっ……。あっ、本当だ! あ、円にも、柿崎にも!」

女子生徒達は自分達の首に、まるで愛玩犬が身につけているような
黒い首輪がはめられていることに気付いた。一通りお互いに指摘しあうと、
視野の外にある首輪の正体をつきとめようとした。指先で触り、
外そうと試みるが、固定する金属部分が硬くてどうにも外せない。
女子生徒達の様子をネギの後から見ていた自衛官がネギに耳打ちした。

「ネギ先生、あまり首輪を弄らせない方が良いのでは?」
「通達によれば、切断しようとしない限り爆発しないとありましたけれど」
「カタログ上は。しかし不慮の事態というものがあります」

ネギは軍人の言葉に頷くと、パンパンと手を叩いた。
騒がしかった生徒達はネギの存在に気がつき、
そして一斉に救いを求めて振り向いた。
「どういうことよネギ、説明しなさい!!
 ことによったらタダじゃおかないから!!」

神楽坂明日菜が立ち上がった。
言葉だけでなく実力で聞きだそうとネギに詰め寄り、ネギの胸元を掴み上げた。
次の瞬間、明日菜はネギから吹き飛ばされて床の上を転がっていた。
ネギの後に控えていた軍人が明日菜の頬を張り飛ばしたのだ。

「ネ、ネギ……」
「教師殿への暴力行為は禁止されている」

軍人は厳かに云った。明日菜は頬を赤くしたまま呆然とネギを見ていた。
床に尻持ちをついたまま、委員長と近衛木乃香が背中を起しても動こうとしない。
「どうしたん、明日菜」と揺り動かした木乃香は、明日菜の視線を追い、
そして自らも絶句した。ネギは殴られた明日菜を見ても微笑みを捨てなかった。
それどころか軍人に礼を云っている。明日菜や木乃香の知るネギは、
いつも明日菜の身の上を気遣い、ちょっとでも明日菜が傷つけば、
瞬間移動するように明日菜の傍に舞い戻っていたのに。

「ネギ君、どないしたんや……。
明日菜は、ネギ君の大切な人やなかったの……?」
「大切な人ですよ。明日菜さんだけでなく、木乃香さんも、委員長も、
 クラス3Aの人は皆僕の大切な宝物です。
 だからこそ、涙を飲んで捧げなくてはならない時もあるんです」

ネギは芝居じみた仕草で目元を拭った。

軍人2人が目配せしあうと、1人が天井からぶら下がっていた紐を引いた。
クラッカーがいくつか鳴る、髪吹雪が舞い上がる、
生徒達の右後方の扉が開いて小銃を構えた兵士達が
何人も軍靴の踵音高く部屋に入ってくる、
部屋の最後列で横並びになる、垂れ幕が広がる。
そこにはこんな言葉が書いてあった。

『祝、麻帆良学園3Aクラス
   特別バトル・ロワイヤル開催!!』

誰も物音一つ立てなかった。
クラス3Aの生徒達は垂れ幕の文字をひたすら凝視していた。
左から右へ視線を動かす。バトルロワイヤル開催。右から左へ。
意味が通じない。もう一回左から右へ。やっぱり同じだ。
バトルロワイヤル開催。私の目がおかしくなったのかも……。
目を閉じ、まぶたをマッサージしてから、読み直す。
間違っていない。バトルロワイヤル開催。

「うそ……」

木乃香は明日菜を支えていた手を離すと、自分自身の肩を抱いた。
何かの悪い冗談であって欲しい。ネギの口から
「あははは、みなさん驚かせてごめんなさい」と云う言葉が紡がれて欲しい。
だがネギは教室でみかけるいつもの笑みを絶やさないまま、
クラス3Aの生徒一人一人の顔を左から右へと順番に見渡している。
まるで、思い出として生徒の顔を網膜に焼き写しておこうとしているかのように。

「い、いやあああああああ!!!」

誰が叫び出したなど些細な問題に過ぎない。
クラス3Aの女子生徒達は一斉に悲鳴をあげると、
部屋の前と後、2箇所に設けられた扉から外へ飛び出そうとした。
焼ける鉄板の上に投げ出されたモルモットの集団のようだった。
ネギは黙ってパニックに陥った集団の行動を見守った。
女子生徒達は扉の前に立ちはだかった自衛隊員によって弾き飛ばされ、
殴り倒され、蹴り返されて転がった。

「おや、龍宮さんに、楓さん、それに刹那さん。
 動かないのですか? 貴女達が動けば、自衛隊の方々は軍人といっても人間、
 到底叶わないと思いますよ。脱出できるチャンスです」

ネギは右往左往する集団の中に、微動だにしない3名を見つけた。
長瀬楓は何十年も滝にうたれ続ける修行僧のように座禅を組み、
龍宮真名はいつでも反応出来るよう片膝をつき、桜崎刹那は膝に木乃香を抱いている。

「生憎だが、私は生き残る見込みが低い行動は取らない。
 この首輪。ネギ先生や、あんたの上に立つ連中が
 スイッチを押したらすぐ爆発する仕組みなのだろう?
 この首輪を解除しない限りどこへ逃げても待つのは『死』のみだからな」
「さすが龍宮さん。この土壇場でも素晴らしい洞察力です」

首輪が爆発物だと云うことを知り、皆のパニックは一層酷くなった。
自衛隊員という名の岩を砕こうと必死で体当たりする。
もちろん効果は無いが、兵士達の表情に辟易の色が走りはじめた。
もう頃合か。ネギは魔法を使い、部屋から音を奪った。
それは一瞬の事だったが、頭に血が上った生徒達を落ち着かせるには充分だった。
生徒達がお互いに顔を見合わせ、ネギに顔を向けるのを待ってネギは喋りだす。

「すみません、みなさんを混乱させてしまって。
 今回のバトルロワイヤルは、みなさん同士が殺し合いをすると云う
 従来のバトルロワイヤルとは違います。みなさんが殺し会う必要は全くありません。
 可能性によっては、ここにいる全員が生還する可能性もあります。
 だからこそ『特別』なんですけれどね」

一般生徒はもちろん、龍宮や楓といった修羅場慣れした者もどよめいた。

1人になるまで殺し合いを続ける。
1人しか生還できない。

それこそバトルロワイヤルにおける最大の恐怖だった。
ところが、ネギは冒頭から最大の恐怖を打ち消してしまった。
もちろん「私達に何をやらせるつもりなの?」と云う不安は
心を押しつぶさんばかりだが、生徒達の瞳に希望の光が戻ったことは事実だった。

「ネギ先生。では今回のバトルロワイヤルの意義はなんなんだ?」

龍宮の質問に、ネギは直接答えない。
窓辺に歩み寄ると灰色の空、灰色の海に浮かぶ灰色の大地を指で示した。

「皆さんには、あの島を占領して貰います」
  
 

    [管理人の短編一言感想集] その22−A
    短編というよりも中編の『バトロワ外伝』
    ネギロワよりも通常のバトロワに重点を置いた本作。
    さすが、武道四天王・・・あれ?古菲はどうした?
    by 別館まとめ管理人(YUYU)
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