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こちら麻帆良学園麻帆良図書館深層部


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こちら麻帆良学園麻帆良図書館深層部

短編No128 法医学教室のネギロワ 

作者:法医N作者 ◆aQ4c0JlaGQ
掲載日時:2008/06/06(金) 22:12:55


こちら麻帆良学園麻帆良図書館深層部
「…が…ま…アル…」
硬い床でカップが砕け、急激な息苦しさに襲われるまで、古菲は、至って楽観的だった。
学園祭一日目が終わり、徹夜のどんちゃん騒ぎの後、
朝靄も張れやらぬ時間に
半ば寝ぼけながらなんとなく案内されるままに乗り込んだバスで本格的に眠り込み、
行き着いた先が謎の島。
爆弾入りの首輪を填められバトロワを宣告され、一度は引き下がったものの
そう簡単に挫けるクラスじゃない。
しかも、運良く信頼出来る仲間と合流し、無事灯台に辿り着いた事で、
ますますもって事態を楽観していた、本当に楽観していたのか逃避していたのかはこの際置く。
四葉五月は、自分のスープのカップに突っ込んだ指をなめ、顔色を変える。
「ああああああ…あんたがぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
気が付いた時には、葉加瀬聡美は、OOバックにより上半身が半ば挽肉と化した
五月の前に立ち尽くしていた。
「あああああああああ………あ…」
聡美の首筋から大量の鮮血が噴出し、まだ煙を上げるモスバーグ・ポンプアクションを手に
聡美はカクンと膝を着いた。

「せっちゃん…うわああぁぁーーーーんっっ!!」
森の中で、刹那は飛び付いて来た木乃香をぎゅっと抱き締めた。
「えぐっ、えぐっ…良かったせっちゃん良かった…」
唐突にも程があるバトル・ロワイヤルの宣告。
午前中にゲームが始まり、見知らぬ島の見知らぬ森で夕暮れ時までうろつき回って、
ようやく出会ったのが誰よりも信用出来て誰よりも頼りになる幼なじみ。
いくら魔法に関わっている木乃香でも、現実感覚すら危うくなりそうな今、
これ以上の頼り、これ以上の心の支えは無かった。

「ゆえっ!」
宮崎のどかが指さした先には、紫色の制服が見えた。
駆け寄ろうとするのどかを、隣の夕映が腕で制する。
「罠、かも知れないです」
「罠?罠って?」
「先ほどから言っている通り、考えたくはありませんが、
このゲームに乗ってしまう人が出て来る可能性は十分考えられるです。
のどか、私の側から離れないで下さいです」
夕映が、支給武器のワルサーPPKを映画の様に上向きに構えながら、
森の中をじりじりと目的に接近した。
「あっ!」
のどかが声を上げ、夕映が小さく頷く。
地面に倒れ込み、ぴくりとも動かないその少女は、
長い髪を鈴のついた髪飾りで二つに束ねていた。
跪き、首筋を触った夕映が首を横に振る。
「アスナさん…」
のどかは、涙も出ないと言う表現が本当だと実感した。
引っ込み事案の自分に対して図書館の仲間ともちょっと違った姉の様な存在、
そう、ネギの隣にいて言わばパーティーの「姐さん」、漠然と感じる恋敵。
その全てが過去となった空虚な思い。
夕映が遺体をごろりと転がし、見慣れた顔であり、
そのオッド・アイからは輝きが失せている事が嫌でも確認される。
制服には倒れた時に着いたらしき枯葉などの汚れが見えるが、さ程の乱れはない。
遺体の制服のブラウスをめくり上げた夕映が、
年齢を考えるとほどほどと言うには十分たっぷりとした左の膨らみの下に、
指先ほどの大きさの傷を発見した。
“…出血はほとんど無し、ですか…”
それは、ほんの短い横線一本の切れ込みだった。

木乃香の斜め後ろを歩いていた刹那の目が鋭さを増した。
「お嬢様、ここで」
木乃香を足止めした刹那は、石ころを二、三個前方の地面に放ち、
手に持った木の枝の杖でその辺りをつつく。
それから、その辺りに不自然につもった草木を杖で慎重にかき分け、つついた。
「人っ!?」
「いけませんっ!」
刹那が止める間もなく、木乃香がかき分けた草木の中から黒髪が、制服が露出する。
次の瞬間、刹那が木乃香を引きはがし、その顔を胸に抱いた。
「いけませんっ、見ては、いけません…」

「痛かったん、ハルナ…ごめんな、うちいてられへんで…」
紆余曲折を経て、横たえられたハルナの遺体を前に座り込む木乃香が言う。
「引きずった様な形跡はなし…」
呟いた刹那の右手人差し指は、ハルナの喉から上に滑っていた。
その指が沈み込む。
ほとんど同時に、後頭部を撫でていた左手人差し指指の腹も、
盆の窪の辺りで沈み込んだ。
その指の、血とも違った黒いものを嗅ぐ刹那の目つきは、完全に仕事モードだった。
その周辺から、刹那は空薬莢を一つ摘み上げる。
「お嬢様…この島では能力は著しく抑制されています。
仮にフルパワーだったとしても、これは、即死です。お嬢様が気に病まれる事では…」
「ハルナが、ハルナが死んだのに、ハルナが死んだのにせっちゃん…」
「申し訳ございませんっ!」
見た事もない本気の怒気を前に、青ざめた刹那が深々と頭を下げた。
「ううん、分かってる。そう言う意味で言ったんやないて。
でもハルナ、大事な友達やったんや、うちの大切な…」
「はい。早乙女さんにとってもお嬢様は大切な友人。
ですから、今は悲しみましょう、それから、前に進みましょう」

「こちらに敵意はありません、ゆっくりと銃をしまって下さい」
「桜咲さんでしたか」
「うちもおるえ、だから…」
「分かりましたです」
夕映が銃をしまい、薄い夜闇の中、木陰から姿を現した刹那と木乃香が
のどかと夕映に再会する。
木乃香とのどかが、定時放送の後泣きはらした顔で飛び付く様に抱き合い、泣き崩れる。

「そうですか、私たちだけですか、生きている人に出会ったのは。
こちらもそうです」
おあつらえ向きの洞窟の中、パチパチと音を立てる焚き火に照らされながら夕映が言った。
「ホンマに、クラスメイトを、殺す、そんな人がいるなんて…」
のどかが震える声で言う。
「うちの支給武器って、これやから」
木乃香が、はりせんチョップを掲げて苦笑いする。
「私はこれー」
のどかが取り出したのは、鈴が二つついた目覚まし時計だった。
「…思い出すなぁ…アスナの事…」
木乃香の言葉に、洞窟の中の空気が沈んだ。
「それに、電池を入れても動かないの」
「見せて頂けますか?」
刹那が時計を借り受け、上下から眺める。
それから、ポケットから中型のドライバー・セットを取り出して解体を始める。
十分もしない内に、洞窟内にけたたましいベルの音が響き、
慌てて電池を抜いて洞窟を飛び出す刹那を余所に、洞窟の中は歓声に包まれた。
「ちょっとした接触不良でした、簡単な構造ですから」
周辺の索敵を終え、無事を確認して戻って来た刹那が言った。

「良かったー」
「良かったですね、のどか」
良かった探しでもしていないとやっていられない、そんな状況だった。

「よく眠っています。やはり、疲れたのですね」
洞窟の奥で寝息を立てるのどかの前で、夕映が言う。
「そうですね…」
夕映が地面に座ると、刹那は、すっと木乃香の背後に立ち、木乃香の首筋に手刀を打ち込んだ。
くずおれる木乃香を地面に横たえ、刹那は夕映に向かい合って座った。
「綾瀬さん、ゆっくりと話しましょうか」

「そうですね」
そう言って、夕映は、懐から取り出したワルサーPPKからマガジンを抜き、
地面に置いた。
「桜咲さんの支給武器は?」
「これです」
刹那は、ポケットからドライバー・セットを取り出し、目の前の地面に置いた。
「これでアスナさんを殺したですか」
「どうしてそう思います?」
「アスナさんは一般レベルではかなりの使い手、にも関わらず、
周辺にはほとんど争った形跡すらありませんでした。
アスナさん相手にあの殺し方をするためには、
極めて高度な技術と、絶対的な信頼が必要です」
「なるほど」
「このかのためですか?」
刹那は、静かに笑みを浮かべるだけだった。
「お二人の関係、あえてアスナさんを手に掛けたあなたに、
私ごときが何かを言うべきではないでしょう」
「そうしていただけると助かります。
綾瀬さん、あなたは早乙女ハルナさんを殺しましたね?」
「はいです。どうして分かったですか?」
「早乙女さんは下から上に、かなりの至近距離から銃撃され、周辺には争った形跡もなかった。
これが出来るのは、この状況下で身近で拳銃を持っていても怪しまれない程の親しい間柄である
背の低い人間です」
「その通りです」
「ゲームに、乗ったのですか?」
「乗りました」
「あなた自身は死ぬ気ですね?」
じっと夕映の目を見ていた刹那が言った。

「私の義務です」
「あなたの義務?宮崎さんのためですか?」
「私は、のどかの心を知っていながら、私は許されない裏切り行為を行ってしまいました。
のどかは、私の心を絶望の淵からすくい上げてくれた大切な親友。
その親友に対してすら、自らの汚れた心で報い、浅ましい欲望を優先させた最低の人間です。
通常の場合であれば、青春の一ページとして、
何か埋め合わせのつく過ちと言えるかも知れません。
しかし、事ここに至っては、それでは間に合わない。
本部の体制を考えると、ネギ・パーティーを集結したとしても分の悪い勝負、
その様な賭けは出来ません。
私のすべき事は一つ、恐らく、桜咲さんと同じです。
是が非でも私はのどかを幸せにしなければならない。
そのための最低条件として、のどかの手を汚す事すらなく、このゲームをクリアさせる。
それが私の償いであり、汚らわしい心を持った私に出来る最後の義務なのです」

飛来したはりせんチョップが夕映の目を直撃し、次の瞬間には、
刹那が夕映に体ごとぶつかっていた。
右手に握った銃口を前に向けた夕映が、
左胸にドライバーを突き立てて後ろ向きにどうと倒れる。
「…せっちゃんがアスナ…殺した…」
その場に片膝をついた刹那は、真っ青な顔で震える背後の木乃香を見なかった。
「うち…うちとせっちゃんが、ゆえ、ころ、し…」
「これは、私の一存で勝手に行った事、お嬢様は、私を助けてくれただけ、
全てはこの刹那が勝手に行った事です」
「せっちゃん…」
「お嬢様、お嬢様が気に病まれる事ではありません。
バケモノが勝手にバケモノに相応しい事をしているに過ぎない、
お嬢様が手を汚す必要などどこにも無い。
お嬢様とは何一つ関わりない、バケモノが何をしていようが、お嬢様は生涯知る必要の無い事、
ただ、遠くから蔑み見ていて下さればいいのです…」


「せっちゃん…うちは、せっちゃんの、お嬢様なんやな?」
「はい」
「せっちゃんっ!」
ハッと振り返った刹那は、その瞬間唇を奪われた。
「ん、んっ!?」
「仮・仮契約やっ!従者の罪はマスターの罪、
何があろうとうちが、うちがせっちゃんと一緒に背負って行くっ!
いやや、守られてばかり、せっちゃんばかり辛い思いなんて、それで、
うちがそれでずっとせっちゃんの事まで一人で背負ってなんて、そんなの、そんなの嫌やっ!
ずっと、ずっとずっと一緒や、ずっと一緒やええなせっちゃん、
これは命令や、お嬢様のマスターの命令、当然従うんやろな、せっちゃんっ!!」
「…はい…お嬢様…
生涯、付いて、参ります。決して、決してお嬢様一人の重荷になど、なりはいたしません…」
「うん」
刹那は、涙の向こうに、極上の笑顔で頷く木乃香を見た。
「それからもう一つ、命令や」
「何なりと、マスター」
「ごにょごにょ…」
「?」
「だーから…もっぺん、このちゃん、言うて…」
「…はい…ごにょごにょ…」
「せっちゃん、どうしたん?」
「あ、お嬢様、その…このちゃん」
「うん、もっぺんやせっちゃん」
「このちゃん」
「せっちゃん」
二人は、どちらともなく喉を鳴らし、声を上げて笑い出した。
ピーンと言う金属音に瞬時に笑いを止めた刹那は、
洞窟にベルトごと放り込まれた、ご丁寧に破砕用と焼夷用を取り混ぜた手榴弾の姿に
喉から心臓がせり出しそうになった。

崩壊した洞窟跡で瓦礫の中からぼこっと立ち上がった刹那は、
次の瞬間にはOOバックを食らって吹っ飛んでいた。
むくりと立ち上がった刹那を前に、サングラスを掛けた超鈴音が、
無感動にモスバーグのポンプを操作し、広がりと威力が最も効果的な距離から
装填済みのOOバックを全弾浴びせる。
くるりと背を向け、洞窟跡を立ち去ろうと歩みを進めた超だったが、
背後の爆発音を聞き、華麗に一回転して刃を仕込んだ摺畳扇を閉じた。
首筋からおびただしい血の尾を引き超の横を飛び去った刹那の肉体は、
自らの頭突きでへし折れた大木の下敷きとなった。
「神鳴流に飛び道具は効かヌと言うガ…
あの対戦車地雷も突破して来たカ、さすがダネ」
「…おまえもな…」
近くで、龍宮真名がこめかみに汗を浮かべて眺めていた。
その視線の先で、超は、栞に押し花した紫色の花を嗅いでいた。
「じゃあ、そろそろやってもらおうか」
「うむ、奪取した武器はほとんど使い果たしてしまたが、
とっときのスラッグが残てるヨ」
「それはありがたいな」
超にモスバーグの銃口を向けられ、真名は不敵な笑みを浮かべた。
「再見」
こだまする銃声は、鉄の鳥のけたたましい羽音により、いともあっさりかき消された。


「女子校って聞いたから、パーになってたら又マワせるって思ったのによ」
「最短記録じゃないか?1×歳でクラス皆殺しでけろっとしてやがる。
末恐ろしいガキもいたもんだなぁ」
超は、ヘリコプターが到着してから、兵士の陰口を聞くともなく耳にしていた。
「サテ…」
プロペラの軽快な羽音を聞きながら、超は口を開いた。
「今日は、何月何日だたカナ?」
「ん?6月22日だ、何せお前が一晩でやってくれたからな」
隣の兵士が薄笑いを浮かべて言った。
「そうカ…」
“私にはやる事があるからネ。だから、先を急ぐヨ。
そう、大切な友を歴史の暗黒から引きずり出し、
代わりに貴様ラを永遠の暗黒に叩き落とすと言うネ。
学園祭のドサクサに紛れての作戦、発想は悪くなかた。
だが、この作戦には致命的な欠陥があたね…”
青空に向けられた超の口元には、薄い笑みが浮かんでいた。

2003年6月21日早朝。
「ん、んーん」
毛布を出た神楽坂明日菜が、腕を伸ばして首を鳴らす。
「みんな寝てるなー、昨日まーた遅くまでドンチャン騒ぎだったし」
「そやなー」
「ああ、アスナさんこのかさんお早うございます」
「おはよ、ネギ」
「おはよーさん」
その時、ネギは携帯電話を取り出した。
「はい、もしもし…」
「どうしたの、ネギ?」
電話をしまったネギに明日菜が尋ねる。
「交通事故だそうです。
近くでバスが無人の建物に突っ込んで爆発炎上したとかで、
全員軍人のコスプレしてたからお祭りに参加するつもりだったんじゃないかと」
「怖いわねー」

ちゃんちゃん
−了−

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