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こちら麻帆良学園麻帆良図書館深層部


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こちら麻帆良学園麻帆良図書館深層部

短編No126 歪んだ愛の形 

作者:スレ汚し
掲載日時:2008/05/24(土) 00:35:01


こちら麻帆良学園麻帆良図書館深層部
どこかで見たことがある。
そうだ。取調室だ。
以前テレビの刑事ドラマで見た取調室だ。
薄暗い感じや、簡素な家具。全体的に灰色な感じが実にそれっぽい。

男に案内されるままに長い廊下を歩いてきた私は、ついに目的地に到着したらしい。
私は"取調室"に一人通された。

その中には先客がいた。
紛れもない。私のクラスの担任のネギ先生だ。
上っ面だけの笑顔を浮かべて、こちらを見ている。
居心地はすこぶる悪い。
「おめでとうございます」
狭い部屋に少年の声が響いた。
「今回のプログラムの優勝者は朝倉和美さん、あなたです」
先生は私の名前を呼んだ。
今さら言われなくても、私以外の生徒が全滅した時点で、気付いてた。確信していた。
けれど、その後の台詞は予想外だった。まるで私が書き下ろした脚本を気に食わない誰かが、書き替えたとしか思えない演出だ。
「いえ、この場合は‥‥‥相坂さよさん‥ですね」
「!!!!!!」
私の心臓が垂直跳びの自己新記録をマークした。とにかくそれぐらい良い飛び跳ねっぷりだった。
「き‥気付いてたんですか」

彼の推理は間違ってない。朝倉さんはネギ先生に敬語を使わないのだ。
私は朝倉さんの姿をした出席番号1番相坂さよだ。
「気付くも何も、ずっと監視してましたから。あなた達のこと」
鼻で笑われたのが、若干鼻に付いた。

私は思いを馳せる。
私達がまだ"二人で二人"だった時まで。



「甘い!甘過ぎます!!」
私達は今、殺し合いをしている。とある辺境の町の中という限られた範囲で麻帆良学園女子中等部3年A組30人が互いの命を懸けて戦い合う。そして生き残った一人が優勝。
理由は分からない。けれど、それが私達に課せられた運命だった。
率直に言う。
私は朝倉さんに生き残ってほしい。
何があっても。例え人の道を踏み外しても。

プログラムが始まってすぐ、朝倉さんと人形に乗り移った私は、今後の行動について話し合った。
流石に道の真ん中で堂々と論議するのは、あまりにも無防備なので、付近の民家にお邪魔した。案の定家主の姿は無かった。
役立つものが無いか適当に物色した後、いよいよ本題に入る。
私の主張はプログラム開始時からずっと変わらなかった。
だが、

「何と言われようと、私はしない。殺し合いなんか‥。絶対に」
彼女は、朝倉さんは優し過ぎた。
頑として、人を殺めることを拒んだ。
彼女は皆と協力すれば、この状況を打破できると本気で思っていた。
私には分かっていた。そんなことは不可能であることを。
確かにうちのクラスには特殊な技能に秀でた人が多い。
けれど、主催者側もこちらのクラスの情報を得て知っているのだから、それなりの対策は練っているだろう。ましてや、麻帆良学園が主体となっているのだ。残された選択肢は、ルールに従うのみだ。
朝倉さんだって内心分かっているはずだ。賢い人だから。
現実を逃避するあまり、絶望的確率の淡い夢に縋っているのだ。
私は朝倉さんのデイパックに目をやる。中には、俗に言うマシンガンが眠っている。
言わずもがな、彼女に支給された強力な武器だ。
私は多少の迷いを振り切り、次の言葉を繰り出した。
「朝倉さん!朝倉さんの武器は『当たり』なんですよ!これはチャンスなんですよ!」
私はしまった、と思った。言い放ってから、気持ちの悪い汗が背中を伝ったのを感じた。
朝倉さんが、目尻をつり上げてこちらを睨んできたからだ。



明らかな怒りの感情表現。適切な言葉を選ばなかった自分を殺したくなる程憎んだ。恥じた。
「何『当たり』って?『チャンス』って?さよちゃんにとって3-Aって、その程度の存在だったの!?」
本音を言うと、その通りだった。私が興味があるのは朝倉さんだけだ。朝倉さん以外は眼中に無い。
私が返事をする前に、彼女は私を視界から消した。彼女の背中しか見えなくなった。


だめだ。
このままではいずれ
彼女は誰かに
その優しさ故に
殺されてしまう。
そんなの嫌だ。
誰かに
奪われるくらいなら
いっそ

私が


「‥っうぁっ!?」
朝倉さんの身体がビクンと跳ね、その勢いで奇声を発した。そのまま両の手のひらを地面につけ、蹲る。
「っ‥はぁ‥っんっ‥」
息が急に荒くなり、小刻みに全身を震わせる。まるで生まれたての小鹿のように、ガクガクと下半身が揺れる。
「さ‥さよ‥ちゃ‥‥ま‥さか‥」
切れ切れに絶え絶えに、彼女は声を絞り出す。実に艶やかな声を。

その時、私は彼女の側にいなかった。
私は彼女の"中"にいた。

こうでもしないと、彼女は言うことを聞いてくれない。


「はぁ‥‥熱‥い‥から‥だが‥あ‥熱‥‥い」
涙溢れるその眼は、既に焦点が合ってないようだった。
ごめんなさい朝倉さん。少しだけ‥少しだけこのお身体、お借りします。
安心して下さい。必ず生き残りますから。朝倉さんは、何も心配しなくていいんです。
顔を赤く染め、必死に抵抗していた彼女も、次第に疲れ果てたのか、襲う感覚に無反応になっていった。
「や‥‥め‥」

それっきり彼女、朝倉和美は言葉を発しなくなった。
朝倉和美と相坂さよが一つになった瞬間だった。
私は汗だくの身体を起こし、デイパックに手を伸ばした。
「!」
ファスナーを摘んだ時、ヒヤリとした感触が伝った。改めて感じる。他人の身体であれど、今、自分が生きているという事実を。
心臓の高鳴りを肌で感じながら、荷物の中に手を突っ込んだ。
そして銃を手に取る。

朝倉さんを守るために。



「先生、私‥怖いんです」
確かに私はプログラムで生き残った。
朝倉さんを守り抜くことができた。
けれど‥
「もし‥もし今ここで、私が朝倉さんから抜け出したら‥」
私は懐から人形を取り出した。

朝倉さんが、私に外の世界を見せてあげたい一心で作ってくれた人形だ。
一生懸命私に似せようとしてくれた愛らしい姿。
今はもの言わぬただの縫いぐるみと化している。
私を見つめるビーズの瞳が、犯した罪を責め立てている気がしてならなかった。
「あ‥朝倉さんは‥私のこと‥‥大嫌いになってるんじゃ‥ないか‥って」
当たり前だ。 世間一般から見たら、今回の件は朝倉和美という名の少女が、クラスメートを皆殺しにし、ただ一人生き残った、とのようにしか見えない。何も悪くないはずの彼女が、言われもない誹謗中傷にさらされるかもしれないのだ。
しかも、その苦しみは一生彼女に付きまとうに違いない。
「私‥朝倉さんに嫌われたくない!!先生、私、どうしたら‥」
思わず叫んでしまった。全く持って自分勝手な言い分を。
狭い部屋に、今度は朝倉さんの声が響いた。



「簡単なことですよ」
少年は言った。

相変わらず上っ面だけの笑顔を浮かべたまま。
「え‥?」
歩み寄ってきた彼は、呆気ない返事に困惑する私の手から、朝倉さんとの友情の証である人形を取り上げた。
そして、それを

ぶちぃっ

「!!!!!」
引き千切り始めた。
私は何が起こったのか理解出来ず、ただ口をパクパクさせていた。
構わずネギ先生は、私の姿をした人形をズタズタにしていく。
彼が終止笑顔だったのは言うまでも無い。
私が我を取り戻した時には、朝倉さん特製のさよちゃん人形は、ただの布切れと藁屑になっていた。
「なななななななな何をして‥!!」
可燃ゴミを必死に掻き集める私を見て、ネギ先生は言った。

「さよさんがずっとそのままでいればいいんです」

私は手を止め、何故か恐る恐る聞いた。
「それは‥どういう‥‥」


「今日からあなたが、朝倉和美さんになればいいんです」


私が朝倉さんに乗り移っている限り、朝倉さんは朝倉さんでいることが出来ない。
つまり、朝倉さんが私を嫌いになることは一生無い。
私が朝倉さんに嫌われることも一生無い。

私はふと、壁に掛かる鏡を見る。
そこには、私が愛して止まない女性(ひと)がいた。


誰よりもかっこよくて、誰よりも優しくて、誰よりも愛しい女性。
私は幽霊。
その女性は人間。
時が流れる限り、いつか必ず別れが来る。
もしこのまま、私が朝倉さんでいれば、私達は永遠に一つでいられる。
最愛の人の一番近くにいることが出来る。

私は自らの身体を抱き締める。
キツくキツく抱き締める。
「朝倉さんの身体‥。朝倉さんの体温‥。朝倉さんの香り‥」

ごめんなさい朝倉さん。私‥私‥‥。


「さて、そろそろ麻帆良に戻りましょうか。さよさん」
「違います、ネギ先生」
私は快楽に歪んだ顔で、言った。


「私の名前は、朝倉和美です」


ネギ先生はニヤリと笑った。
その笑顔はやけに人間味が溢れていた。


〜了〜

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